見出し画像

超早期離床の是非。脳卒中後には「非」

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後の早期移動:参加者個人データのシステマティックレビューとメタアナリシス

Rethnam V, Langhorne P, Churilov L, Hayward KS, Herisson F, Poletto SR, Tong Y, Bernhardt J. Early mobilisation post-stroke: a systematic review and meta-analysis of individual participant data. Disabil Rehabil. 2022 Apr;44(8):1156-1163. https://doi.org/10.1080/09638288.2020.1789229

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 参加者個人データ(IPD)のメタアナリシスにより、通常ケアと比較した超早期離床(early mobilization: EM)の安全性と有効性を調査すること。

[方法] 急性期脳卒中患者を対象に、脳卒中発症から48時間以内に開始したベッド外移動と通常のケアを比較した無作為化対照試験からIPDを探した。最近のCochraneレビューから6つの試験を入手した。混合効果ロジスティック回帰モデルを用いて、脳卒中後3ヶ月の良好な転帰(modified Rankin Scale 0-2)および死亡を両群間で比較した。調整オッズ比(aOR)およびそれぞれの95%信頼区間(95%CI)が報告された。

[結果] 2630人の参加者のうち、1437人(54.6%)がEMに、1193人(45.4%)が通常ケアに割り付けられた。介入プロトコルは試験間でかなり異なっていた。脳卒中発症後、移動開始までの時間の中央値(四分位範囲)は、EM群20時間(14.5-23.8)、通常ケア群23時間(16.7-34.3)であった。脳卒中発症後3ヵ月目に良好な転帰が得られたのは、通常ケア群と比較してEM群では少なかった(678人[48%]対611人[52%]、aOR=0.75、95%CI:0.62~0.92、p=0.005)。脳卒中後3ヶ月の死亡については、EMと通常のケアの間に差は認められなかった(102 [7%] vs. 84 [7%]; aOR = 1.46, 95%CI: 0.92-2.31, p = 0.108)。

[結論] 移動の開始は脳卒中後24時間以降にのみ検討すべきである。脳卒中後のEMの安全性、最適な投与量、タイミングを特定するためにさらなる研究が必要である。

[臨床意義] 脳卒中後早期にモビライゼーションを開始した患者は、通常のケアよりも転帰が悪かった。多くの研究で動員の介入や通常のケアについての詳細が不十分であったため、これ以上の解釈には限界がある。動員の開始は脳卒中後24時間以降にのみ検討されるべきである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

改善は巧遅より拙速
トヨタの口癖より

どうやら、脳卒中の場合には、少し事情が違うらしい。
超早期離床。
近年のリハビリテーションにおけるホットワードの1つだろう。
早ければ早いほど、良い。
そう思っていた。
そんな僕にとって、今回の論文が示した結果「脳卒中患者にとっては、早期離床が害になる場合がある。少なくとも神経運動機能(mRS)においては」は面食らった。
今回の論文では差は認めていないが、死亡率に関しても報告も多い。

✅ 脳卒中者を対象とした早期離床と死亡率の関連性調査
- 脳卒中後 14 日目の全症例死亡率はわずか 3.8%であったが、年齢と脳卒中重症度を調整した死亡率は、通常のケアに比べて超早期離床群(<24hour)で増加した。
- 脳卒中の進行はVEMでより一般的であった。
📕 Bernhardt, Julie, et al. Neurology 96.8 (2021): e1156-e1166. >>> doi.

なるほど、脳卒中者を対象とした超早期離床は危険、これはある程度コンセンサスになりつつあるようだ。
じゃあ、運動器疾患、たとえば大腿骨近位部骨折に関しては、どうなんだ?
勉強してみた。

✅ 大腿骨近位部骨折者を対象とした超早期離床の調査
- 股関節骨折に対する手術を受けた60歳以上の患者135,105人のデータを調査した
- 早期離床は、術後30日までに退院する確率を2倍に増加させた。
- 死亡リスクは早期離床(<48hour)vs. 通常で 2.9% vs. 8.9%と早期離床で低かった
📕 Sheehan, Katie J., et al. Age and Ageing 50.2 (2021): 415-422. >>> doi. https://doi.org/10.1093/ageing/afaa204

脳血管疾患では早期離床は「非」であり、
運動器疾患では早期離床は「是」なのかもしれない。
これは、なぜだろう。
完全に根拠のない仮説を立ててみた。

▶︎ なぜ脳血管は早期離床が「非」?
「治るのを待つ」治療だから
・脳出血した場合に血腫除去したとしても開いた穴はそのまま?
・イメージは “木工用ボンドをつけたばかりの二本の棒”
・ある程度ボンドが固まる(半透明になるくらい)になってから、動かせる

▶︎ なぜ運動器は早期離床が「是」?
「治してある」治療だから
・内固定や人工骨置換によって、直後より固定性が得られている
・イメージは “ガムテープでぐるぐる巻きにした二本の棒”
・待とうが待つまいが固定性には違いがない、だったら早期に動かせばいい

超早期離床。
誰にとっても一様に良いものではなく、対象を選ぶ。
対象の選択には、病態レベルに立ち返ることが必要かも知れない。
もっと、現実にそこで起こっている病態を勉強しなければならないと感じた。

⬇︎ 関連 note✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集