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人工関節置換術後における患者報告型アウトカムの頭打ち


📖 文献情報 と 抄録和訳

人工関節全置換術後の患者機能はいつ「プラトー」に達するのか? コホート研究

📕Ekhtiari, Seper, et al. "When does patient function “Plateau” after total joint arthroplasty? A cohort study." International Orthopaedics (2024): 1-9. https://doi.org/10.1007/s00264-024-06248-8
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[背景・目的] 年間10万件以上の手術が行われている人工股関節置換術と人工膝関節置換術は、カナダで最も一般的な外科手術の2つである。患者報告アウトカム評価(PROM)は6~12ヶ月で頭打ちになるという文献がある。本論文の目的は、人工股関節全置換術(THA)および人工膝関節全置換術(TKA)後の患者報告アウトカム指標(PROM)の軌跡を分析し、この軌跡に対する潜在的な交絡因子の影響を評価することである。主な研究課題は、「予定されたTHAおよびTKAを受けた患者のPROMはどの時点で横ばいになるか?」というものであった。

[方法] 本研究は、前向きデータベースのデータの後方視的解析である。対象患者は、予定された初回THA/TKAを受け、術前にオックスフォード・スコアが記録され、さらに術後6週間、6ヶ月、1年、2年の4時点のうち少なくとも2時点のスコアが記録されている患者とした。

[結果] オックスフォードスコアの平均値は、
・術前:THA:18.0(7.8) / TKA:20.1(7.5)
・6週間後:THA:33.8(7.9) / TKA:28.7(7.8))
・6か月後:THA:40.2(7.3) / TKA:35.9( 8.3)
・1年後:THA: 41.0 (7.3) / TKA: 37.3 (8.4)
・2年後:THA: 40.0 (8.5) / TKA: 36.4 (9.6)

これらの結果から、THA, TKA後の患者の患者報告型アウトカムは手術後6ヶ月までに大きく改善し、その後は有意な改善が見られなくなる、すなわち機能回復が「プラトー」に達することが示唆される。

[結論] 初回THAまたはTKAを受ける患者は、術後6か月間は臨床的に有意な改善が期待できる。この時点を超えると、患者報告アウトカムは横ばいとなる。これらの知見は、術前の話し合いにおいて患者の期待値を設定する上でも、また術後の経過について患者が期待する内容を外科医が現実的に理解する上でも、いずれも重要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

鶴は千年、亀は万年。
生物には、その種に固有の寿命がある。
そして、寿命に応じた『成長曲線』がある。
たとえば、人間の寿命は80-100年間として、十数年かけて成長/成熟し、成人に至る。
一方、カエル(アマガエル)では寿命が数年、オタマジャクシ→カエルが1-2ヶ月。
その前提を知っているかどうかで、目の前の現象の価値づけが変わる。
「生まれて3ヶ月経った。まだ寝てるんだけど・・・」
これは、人間においては「普通」だが、カエルにおいては「間違いなく問題」である。
このように、その種固有の成長曲線を知っていることは、特に親にとって重要だ。

一方、リハビリテーション医療に関わっていると、疾患や症状固有の『回復曲線』あることを知る。
・筋肉痛なら数日
・創傷なら2週〜4週
・骨折ならその部位によって(Gurlt & Coldwell)
・脳卒中の運動麻痺なら3-6ヶ月

今回の抄読研究は、人工関節置換術後の患者報告型アウトカムに関して、回復曲線を示した。
その曲線は、術後6ヶ月という時点でプラトーに達することを示していた。
「先生、どのくらいの時間をかけて良くなっていくものなのでしょうか?」
という問いに対しては、
「少なくとも、主観的な改善は、概ね術後6ヶ月くらいまで徐々に良くなっていくようです」
と答えを返すことができそうだ。

春夏秋冬は、生物共通、だが期間の長短はある。
同じように、疾患や症状の1つ1つに、特有の期間における季節がある。
『回復曲線』、その言葉に集約されるだろう。

人間にもそれに相応しい春夏秋冬があると言えるだろう。
十歳にして死ぬものには、その十歳の中に自ずから四季がある。
二十歳には自ずから二十歳の四季が、三十歳には自ずから三十歳の四季が、五十、百歳にも自ずから四季がある。
十歳をもって短いというのは、夏蝉を長生の霊木にしようと願うことだ。
百歳をもって長いというのは、霊椿を蝉にしようとするような事で、いずれも天寿に達することにはならない。
私は三十歳、四季はすでに備わっており、花を咲かせ、実をつけているはずである。
それが単なる籾殻なのか、成熟した栗の実なのかは私の知るところではない。
もし同志の諸君の中に、私のささやかな真心を憐れみ、それを受け継いでやろうという人がいるなら、それはまかれた種子が絶えずに、穀物が年々実っていくのと同じで、収穫のあった年に恥じないことになるであろう。
同志諸君よ、このことをよく考えて欲しい。

(参考文献:古川薫著「吉田松陰 留魂録」)

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