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Time to Benefit解析。改善にどのくらい時間がかかる?

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における血圧治療後の脳卒中減少のベネフィットまでの時間。メタアナリシス

📕Ho, Vanessa S., et al. "Time to benefit for stroke reduction after blood pressure treatment in older adults: A meta‐analysis." Journal of the American Geriatrics Society (2022). https://doi.org/10.1111/jgs.17684
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:Time to Benefit 解析とは?
- 有益性に至るまでのラグタイム(「いつ役立つか」)を計算するための指標や方法論
- ①メタ分析による定量的な推定値を利用する方法
- ②介入群と対照群のKaplan-Meier生存曲線を検討することにより、有益性へのラグタイムを推定する
📕Lee et al. JAMA 310.24 (2013): 2609-2610. >>> doi.
🔑 Key points
- 高齢者200人において、より集中的な高血圧治療が1.7年後の脳卒中1人を予防する
- ベースラインの収縮期血圧(SBP)が150mmHg未満の高齢者では、より集中的な高血圧治療による恩恵までの期間(TTB)は1.7年より大幅に長いようだ。
- ベースラインのSBPが190mmHg以上の高齢者では、TTBは1.7年より短くなるようである。
- なぜこの論文が重要なのか?:高齢者の圧倒的大多数は平均余命が1.7年以上であるため、我々の結果は、高血圧を有するほぼすべての高齢者が治療から恩恵を受けることを示唆するものである。

[背景・目的] 高齢者における高血圧治療は、死亡率、心不全を含む心血管イベント、認知障害、脳卒中リスクを減少させるが、失神や転倒などの害をもたらす可能性もある。ガイドラインでは,即効性のある害と遅効性のある予防的介入は,余命がその介入のtime to benefit(TTB)を超える患者を対象とすることが推奨されている。我々の目的は,65歳以上の成人において,より強力な高血圧治療を開始した後の脳卒中予防のためのTTBをメタ解析により推定することであった。

[方法] 2つのCochraneシステマティックレビューと,2021年8月31日までのMEDLINEおよびGoogle Scholarでの後続論文の検索から研究を同定した。高齢者(平均年齢65歳以上)において、標準治療(未治療、プラセボ、またはより集中的な治療)とより集中的な治療群を比較した無作為化対照試験からデータを抽出した。ワイブル生存曲線をあてはめ、ランダム効果モデルを用いて、対照群と介入群間のプールされた年間絶対リスク減少(ARR)を推定した。Markov chain Monte Carlo法を適用し、初発脳卒中のARR閾値(0.002、0.005、0.01)までの時間を決定した。

[結果] 9つの試験(n = 38,779)が同定された。平均年齢は66歳から84歳で、追跡期間は2.0年から5.8年であった。より強力な高血圧治療を受けた200人(ARR = 0.005)が1回の脳卒中を予防するのに1.7年(95%CI: 1.0-2.9)必要であると判断された。研究によって不均一性が認められ、収縮期血圧の厳格なコントロール(SBP<150mmHg)に焦点を当てた研究では、より長いTTBが示された。例えば、SPRINT試験(ベースラインSBP=140mmHg、達成SBP=121mmHg)では、治療を受けた200人の患者の1回の脳卒中を回避するTTBは5.9年(95%CI: 2.2-13.0 )であった。

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✅ 図. ARRの閾値を達成するまでの有益性の時間に関するForest plot。(A)ARR=0.002のForest plot。(B)ARR=0.005のForest plot。(C) ARR = 0.01のForest plot。

[結論] 200人の高齢者を対象としたより集中的な高血圧治療により,1.7年後に1回の脳卒中を予防することができた。研究間の異質性を考慮すると,個々の研究からのTTB推定値は,我々の要約推定値よりも臨床的な意思決定により適切である可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

無知を恐れず、偽りの知識を恐れよ
真実でないものを真実と思うより、何も知らない方がむしろいい

トルストイ

未来とは、予測できるものだろうか。
いや、予測「しきれる」ものだろうか。
大前提として、この疑問にしっかりと答えてから、予後予測研究と向き合うべきだ。
個人的な回答は、「絶対的に予測しきることは不可能。だが、起こりうることに近づくことはできる」
すなわち、予測をより良くすることはできる、だが絶対はない。

そのような前提に立ったうえで、患者や患者家族からの質問で、とくに回答に窮するのが、
「よくなるのに『どのくらいの時間』かかりますか?」だ。
ベクトルの方向性は、大体わかる。
良くなりそうか、良くならなそうか。
しかし、スカラー量はというと、どうしてなかなか、そうはいかない。
どのくらいの期間がかかるか、ということには、あまりにも多岐な要因が関わっているから。
既往歴、合併症、教育歴、意欲・自発性、性格、社会的決定要因・・・。
「やってみないとわかりませんね。」
とくに脳卒中患者の治療期間に関しては、これが素直な意見。
そこに「過去の入院患者は・・・でした」という情報を、取ってつけたように付与できるに過ぎない。

その中で、今回抄読した研究のように、「この治療が有効になるには・・・年かかります」が明確に示されることは、とても安心できる。
自信をもって、おおよその目安として示すことができるからだ。
それを示したうえで、「未来を完全に予測することには限界があるから、早くなる可能性もあるし、逆に時間がかかる可能性もある」ことに、合意を得ることも必要だろう。
まったく、未来というやつは、分からない❗️
でも・・・。だから・・・。
「Time to Benefit」、支持性の高い杖を僕たちのこの手でつくって、力強く歩んでゆきたい。

未来についてわかっている唯一のこと、それは現在とは違うということだ
未来を予測しようとすることは、夜中にライトをつけず、後ろを見ながら田舎道を運転するようなものだ
未来を予測する最善の方法は、それをつくることである

ピーター・ドラッカー

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