腓腹筋に潜る。筋内各部位の筋束長と羽状角
📖 文献情報 と 抄録和訳
ヒト腓腹筋内側筋膜の生体内3次元構造:地域差と筋サイズ依存性
[背景・目的] 筋束の構造(長さと羽状角)は、筋内で局所的に変化することがある。ヒトの筋肉における筋膜構造の変動はin vivo(生体内)で評価されているが、個人間の変動とその決定要因については不明な点が多く残されている。筋内における羽状角の不均一な変化が、慢性的な力学的負荷による筋サイズの変化と関連していることを考慮し、我々は筋束構造の領域的変動が筋サイズの個人間変動に依存していると仮定した。
[方法] この仮説を検証するため、健常成人15名(男性10名、女性5名、23.7±3.3歳、165.8±8.3cm、61.9±11.4kg、平均±標準偏差)の右下腿内側腓腹筋を、膝関節中立位で完全伸展した状態で、磁気共鳴拡散テンソル画像とプラクトグラフを用いて筋膜を3次元的に再構築した。
[結果] 3次元再構成された筋束は,矢状面と冠状面の両方で長さと角度が変化し,深部骨膜から生じていた.筋束の長さは、遠位部(遠位-内側:41.0 ± 5.0 mm、遠位-外側:38.9 ± 3.6 mm、p < 0.001)に比べ中央部(中央-内側:52.4 ± 6.1 mm、中央-外側: 52.0 ± 5.1 mm)で著しく長かった。2次元羽状角(筋表面に対する角度)は、中位より遠位、外側より内側で有意に大きかった(middle-medial: 26.6±3.1°、中外側:24.1±2.3°、遠位内側:31.2±3.6°)。また、3次元羽状角(筋の作用線に対する角度)では、近位-遠位の差のみが有意であった(p < 0.001)。これらの結果は、筋束の3次元的な構造変化を明確に示している。
また、領域間の標準偏差で評価した領域間変動の大きさは、個人差が大きく(筋膜長で4.0~10.7mm、2次元羽状角で0.9~5.0°、3次元羽状角で3.0~8.8°)、体重で正規化した筋量と正の相関があった(r = 0.659-0.828,p ≤ 0.008)。
[結論] 本研究では、筋束の長さと羽状角がヒト腓腹筋の中で変化することを示し、その3次元的な構造の複雑さを浮き彫りにすることができた。一方、筋束構造の局所的な変化の大きさは個人間でかなり異なり、筋の大きさと正の相関があった。これらの結果は、筋束構造の変動が筋サイズに依存することを明確に示している。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
『横断マッサージ』という手技がある。
筋束の長軸に対して、横断するように行うマッサージである。
マッサージの手技の1つであり、癒着の剥離や疼痛の緩和、筋スパズム減少を目的として行われることが多い。
その名が示すように、そのマッサージにおいてはしっかりと横断することが大事だ。
斜めでは、髪の毛でイメージすると撫でるだけになってしまい、その位置をずらしたりする効果は乏しくなる。
そして、今回の研究、腓腹筋である。
僕はこれまで、腓腹筋のマッサージでは、腓腹筋を概ね一個の塊と認識して、下腿長軸に対して横断マッサージをしていた。
だが、その1個の筋の中にも、筋束長、羽状角のオーケストラがあった。
近位は長く平坦、遠位は短く立っている。
それが頭に入った状態では、近位に対してはほぼ下腿長軸への横断マッサージで良いだろうが、遠位に対してはもう少し矢状面状で後ろに傾斜したラインを横断するようなマッサージにした方がいいだろう。
皮膚一枚下の世界は、直接的に目で見ることはできない水面下である。
だからこそ、解剖学を学ぶ必要がある。
有効な理論負荷を、自らつくり上げていくしかない、それが潜ること。
そして、これが大事だと思うのだが、解剖学も『漸進』している。
主に、技術の進歩によって。
世界は止まってはいない。
僕たちの解剖学の知識も、学生レベルで、教科書レベルで、止まっている場合ではない。
○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓
‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び