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414人のスポーツPTを調査:傷害予防プログラムの構成

📖 文献情報 と 抄録和訳

傷害予防プログラムは、世界中でどのように構成され、実施されているか;スポーツ理学療法士を対象とした国際調査

Mendonça LD, Ley C, Schuermans J, Wezenbeek E, Ifspt, Witvrouw E. How injury prevention programs are being structured and implemented worldwide: An international survey of sports physical therapists. Phys Ther Sport. 2022 Jan;53:143-150.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- スポーツPTの過半数が予防プログラム(IPP)の企画・実施に参画している。
- IPPは主にアスリートの傷害歴、スポーツ傷害の疫学、プレシーズンの評価結果に基づいて編成されている。
- IPPは主に(一般的な)ウォームアップのルーチンや、PTの指導による個別の運動療法で実施される。
- IPPの有効性は、主にシーズン中の傷害発生状況とシーズン間の比較で分析される。
- IPPを実施するための障壁は、主にアスリートの週間トレーニングスケジュール内の時間不足に関連しているようである。

[背景・目的] 傷害予防プロセスにおけるスポーツ理学療法士(PT)の役割を明らかにし、性別やレベルの異なる世界中の競技団体やスポーツチームで適用されている予防プログラムの構造や関連(組織)方針を比較すること。

[方法] デザインは横断的研究。国際スポーツ理学療法連盟を通じて招待された、アスリートに携わるスポーツPTを対象。主なアウトカムはスポーツ傷害予防プログラム(IPP)の構成と実施状況。

[結果] 414人がこの調査研究に参加した。IPPをカスタマイズするために最も頻繁に使用されたのは、アスリートの負傷歴(68.84%)、スポーツモダリティ内で最も一般的な負傷(67.87%)、アスリートのプレシーズンスクリーニング結果(64.01%)であった。ウォームアップ(70.04%)およびPTが個別に指導する運動療法(70.04%)は、予防ルーチンを編成するために好ましい方法であった。IPP実施の主な障壁は、アスリートの週間トレーニングスケジュール内の時間不足(66.66%)であった。参加者の大多数(72.84%)は、現在のシーズンと前シーズンの傷害発生を比較することによって、IPPの効果認識を評価すると報告した。

[結論] この調査結果は、現代のスポーツ傷害予防の組織と実施方針を国際的なレベルで明らかにした初めてのものである。この情報は、スポーツPTコミュニティが世界的にIPP(実施)戦略を改善し、標準化するための支援となる可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

病院での理学療法業務に比べ、トレーナーは蛸壺化されやすい業態だと思う。
とくに、学校やチームという単位は、ブラックボックスになりやすい。
なぜなら、学校やチームというのはチーム事情を進んで公に晒すことはほぼなく、外部から見えることが少ない、島国的な環境だからだ。
それに比較すれば、病院での理学療法業務は、大陸に似ている。
隣国の情勢が地続きに見えるし、交流もしやすい。
だから、トレーナーの業務内容は、良くも悪くもガラパゴス化しやすく、常識が構築されにくいフィールドといえる。

そんなトレーナー業態の特徴がある中で、このような各トレーナーの手の内を明かしてくれている研究は有難い。
まず、傷害予防における主戦場の1つは「ウォーミングアップ」だった。
ぼくが関わる野球部の監督がよくいうことは「ウォーミングアップは大切です。毎日やることですからね、こだわりたいですよ」だ。
積小為大、毎日の微差が1年間、数百回積み重なると、大差になる。
トレーナーは、そのデザインを自らの血で描くほどには、真剣になるべきだ。

傷害予防における主戦場の2つ目は、「個別に指導する運動療法」だった。
これは、当たり前の回答というか、まあそうだ。
だが、ここに障壁が強く関わってくる、「時間不足」だ。
「時間がない」、これはものすごく共感できる。
重度な傷害によって、完全に別メニューになっている選手はむしろ関わりやすい。
いつでも引っ張ってきて対応が可能だから。
だが、練習には参加できるが、痛みや問題があるレベルの選手との「個別療法」が難しい。
安易に、練習後に残す、というわけにはいかない。
それは選手(練習時間の延長、安全面の問題)にとっても、監督(練習時間の延長、対応終了を待つ必要性)にとっても、トレーナー(練習時間の延長)にとっても、無理が生じる。
監督-トレーナー間における明確な時間枠の確保と、その事前合意が必要だと思う。
たとえば、グラウンド整備のときは、選手を引っこ抜いていい、自由に見ていい、とか。それがないと監督-トレーナー間での認識の齟齬が生じ、結果、信頼関係の問題に発展しかねない。

それにしても、この時間がない、という問題はなんなのだろう?
昨今、どの職種・領域でも、この障壁があるよな。
昔は、もっと時間がゆっくりと進んでいた気がする。
いま、トレッドミルの速度設定が、早すぎないか?ほんと、コケるわ。
効率至上主義が、一員だと思っている。

効率至上主義 → 効率が上がる → さらに効率を求める → 余裕がなくなる・余裕を悪として排除しようとする → 余計なことをしなくなる

余計だと思われることの中に、ほんとうに大切にしたいものがあるのではないか。
子どもたちは、どう感じているのだろう。

時間をケチケチすることで、ほんとうは全然別のなにかをケチケチしているということには、だれひとり気がついていないようでした。
自分達の生活がひごとに貧しくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、誰一人認めようとはしませんでした。
でもそれをはっきり感じはじめていたのは、子どもたちでした。

ミハエル・エンデ「モモ」より

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