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リハビリにおける挑戦の概念的要素


📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中リハビリテーションにおける課題「挑戦」の理解:学際的な概念分析

📕Gomes, Emeline, et al. "Understanding task “challenge” in stroke rehabilitation: an interdisciplinary concept analysis." Disability and Rehabilitation (2024): 1-11. https://doi.org/10.1080/09638288.2024.2356010
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[背景・目的] リハビリテーションは脳卒中後の障害を最小限に抑える上で重要な役割を果たしており、リハビリテーションの効果と成果には「挑戦 (チャレンジ, challenge)」という概念が不可欠であると提唱されている。本レビューでは、理学療法、作業療法、言語療法、脳卒中患者の視点から、脳卒中リハビリテーションの文献で挑戦がどのように概念化されているかを明らかにする。副次的な目的は、脳卒中リハビリテーションに適用できる挑戦の定義を提供することである。

[方法] 原則に基づく概念分析を用いて、脳卒中リハビリテーションの文献における「挑戦」を調査した。42件の論文が対象となった。データの分析には、没頭、分析的質問、コーディング、統合を行い、「挑戦」の概念的要素を導き出した。

[結果]

■ 挑戦の前提要因(Antecedents)
・課題の理解:専門領域ごとの特徴(discipline-specific)、安全性(safety)、過去の経験(past experience)
・個人の理解:患者の人口統計的特徴(patient demographics)、評価(assessment)、自己効力感(self-efficacy)

■ 挑戦の特性(Attributes)
・多面的:挑戦は単一の側面ではなく、「課題そのものの難易度(task)」、「患者の能力(ability)」、「患者が主観的に感じる難しさ(experience)」が相互に関係しながら成立する。
・多次元的:
 - 名目的な挑戦:課題自体の難易度(例:歩行距離の長さ、持ち上げる物の重さ)
 - 機能的な挑戦:課題の難易度と患者の能力とのバランス(例:患者がその課題をどれだけ達成できるか)
 - 主観的な挑戦:患者がどれだけ困難と感じるか(例:課題が「やりがいがある」と感じるか「不可能」と感じるか)
・動的:挑戦のレベルは固定的ではなく、時間とともに変化し、個々の患者の状態やリハビリの進行によって調整される必要がある。

■ 挑戦のアウトカム
・学習と回復の促進(運動・認知機能の改善)
・患者のモチベーション向上(楽しさ・関与の増加)
・リハビリの持続性向上(退屈・挫折を防ぐ)

一方で、挑戦が低すぎると「学習や成長が乏しくなる」、逆に高すぎると「フラストレーションや諦めを引き起こす」ため、「最適な挑戦レベル(Optimal Challenge)」の設定が不可欠である

[結論] 挑戦は、個人の能力や経験に合わせて慎重に最適化された場合、学習、回復、脳卒中後の取り組みにプラスの影響を与える可能性がある重要な概念である。本レビューは、挑戦の理解、運用、発展のための概念的基盤を築き、リハビリテーションを通じて増大する脳卒中後遺症の負担に対処するための重要な示唆を提供する。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

常々、信奉していることなのだが、人生において最も大切なものは『加速度』だと思っている。
どういうことか。
例えば、僕には子どもがいる。
子どもの保育園で、運動会があったとき(3歳時)の話だ。
障害物走の題目があり、そこでは緩やかな傾斜を登り、少し高いところからジャンプして、走ってゴールする。
それを自分の子どもが一生懸命に達成しているところを見て、感動する。
この『感動』こそ、加速度なのだ。
大人にとって、この課題は至極容易いものだろう。
だが、3歳の子どもにとっては一大事だ、その課題達成に向けて、練習して、生長しなければならない。
そして、この『生長』こそが元々いたレベルからの加速度といえるものだ。

患者さんと一緒にリハビリをしていると、やっぱり本質は加速度だよな、と思う。
疾病や傷害によって、基本的な日常生活の自立が難しい状態。
もともとの『速度』からみると、大分低下したように映る事態だろう。
だが、繰り返していうように、大切なことは『加速度』なのだ。
そこから、再び日常生活の自立に向けて力強く挑戦し、生長していく過程、これこそが尊いのだ。
そのために、日々全力で挑戦し、失敗し、成功し、自立ににじり寄っていく、その過程こそが。

今回の抄読研究は、そんなリハビリテーションの本質とも思われる『挑戦』ということの概念的要素を明らかにしてくれた。
この中で、個人的に重要だと感じたのは、『主観的な挑戦』である。
(この患者さんの能力であれば、このくらいの課題はこなせるはず・・・。)
それに対して、患者さん側が主観的に過度な難易度の課題であると評価することがある。
そこも含めての、挑戦だ。
その主観的な難易度感を含め、至適難易度を明らかにする必要がある、と学んだ。
僕も、挑戦する患者さんと一緒に日々挑戦し、生長したいと切に願い、行動している。
1日1日の、最大生長を、何か目的を考えることもなく、繰り返したい。

そもそも人生の幸福というものは、現在の生活程度自体というよりは、
むしろその生活の方向が上り坂か下り坂か、上を向くか下を向くかで決定されるものである
つまり、人の幸福は出発点の高下によるのではなく、出発後の方向のいかんにあるのだ
本多静六

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