軟骨細胞への超音波照射の効果
📖 文献情報 と 抄録和訳
健康な軟骨細胞および変形性関節症の軟骨細胞に対する超音波治療の効果とメカノトランスダクション経路
[背景・目的] 超音波治療が軟骨細胞に与える影響とメカノトランスダクション経路を調べる。
[方法] 変形性関節症(OA)治療のために軟骨細胞を刺激する超音波を探求するin vitro研究を特定するために、PubMed、EMBASE、Web of Scienceデータベースを2021年9月19日まで検索した。研究特性、超音波パラメータ、in vitroセットアップ、メカノトランスダクション経路を収集した。バイアスリスクは、Risk of Bias Assessment for Non-randomized Studies(RoBANS)ツールを用いて判定した。
[結果] 健康な軟骨細胞およびOA軟骨細胞からなる31の研究が含まれた。ほとんどの研究は、温度管理、セットアップの較正、不十分な半定量分析、独立した実験の欠如により、パフォーマンス、検出、偽複製バイアスのリスクが高かった。超音波は、音響ゲル、水浴、または培地を介して培養プレートに適用された。使用したセットアップに関係なく、超音波は軟骨の生産を刺激し、その分解を抑制したが、その効果の大きさは有意ではなかった。超音波は、OA軟骨細胞のp38、c-Jun N-terminal kinases(JNK)、factor nuclear kappa B(NFκB)経路を阻害してアポトーシス、炎症、マトリックス分解を抑える一方、健常軟骨細胞ではphosphoinositide-3kinase/Akt (PI3K/Akt), extracellular signal-regulated kinase (ERK), p38 and JNK pathwayを誘発しマトリックスの合成を促進した。
[結論] 含まれる研究は、超音波の適用が軟骨細胞に対する治療効果を誘発することを示唆している。しかし、これらの結果は、パフォーマンスバイアス、検出バイアス、偽複製バイアスのリスクが高いことが確認されたため、慎重に解釈する必要がある。今後の研究では、OA膝の軟骨再生に対する超音波の適用性を高めるために、ヒトOA軟骨細胞培養物への超音波の適用を検討する必要がある。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
花粉、ウィルス、ハウスダスト…。
目に見えないものは、その存在の確らしさを信じることが難しい。
だから、それらに対する軽視や、対応が不十分になりやすい。
だが、人間には、先人たちによって開発されてきた多種多様な『見える化の技術』がある。
①は感覚モダリティの限界を超え、②は距離を超え、③は解像能の限界を超えている。
今回のテーマであるin-vitro研究は、③だ。
超音波療法は、やっている最中に細胞にどのような変化が起こっているか、『目には見えない』。
だから、分かりやすいストレッチングや関節モビライゼーションと比較して、じれったさを感じてしまう。
だが、僕たち人間の解像能の限界を超えたところで、確かな善方向の変化が起こっている。
今回の論文から、それを学ぶことができた。
人間の偉大な能力の1つに『理論負荷』という能力がある。
例えば、熟練した医師は、画像をみると病態部分が強調して(光ったり、明るくなったり)見えるらしい。
これは、背景となっている理論や経験が客観的な視覚情報にデフォルメ(強調)を加えていると解釈できる。
このように、本当は目には見えていない情報を、別個に学んだり経験したりしたことで、さながら映像で見ているかのように編集する機能が、人間にはある(良くも悪くも)。
今回の研究によって、超音波治療が健常な軟骨細胞、OA者の軟骨細胞に起こす事柄の現象的イメージを持つことができた。
これから、僕が超音波を患者さんの膝に当てるときには、その脳裏に見える化された軟骨細胞変化の映像が映ることだろう。
それは、超音波治療に対する僕の信頼/信念を増させることだ、きっと。
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