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真空のソケット。大腿切断者の股関節を解放する新技術

📖 文献情報 と 抄録和訳

経大腿切断者の歩行バイオメカニクスに対する坐骨包帯と坐骨下ソケットの効果の比較。無作為化クロスオーバー試験

📕Fatone, Stefania, et al. "Comparison of Ischial Containment and Subischial Sockets Effect on Gait Biomechanics in People With Transfemoral Amputation: A Randomized Crossover Trial." Archives of physical medicine and rehabilitation (2022). https://doi.org/10.1016/j.apmr.2022.02.013
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.
✅ 前提知識:ICソケットとNU-FlexSIV ソケットとは?
■ Ischial Containment (Standard of Care)
- 坐骨収納型ソケット ※現在の標準的な治療法
- 牽引の仕組みはCAT-CAM構造(坐骨をソケット内に収納、大腿骨と骨盤を固定)
- ソケットの最も近位側には、坐骨結節の近位にある坐骨斜面封鎖とトリムラインが含まれる(ソケット最上縁が高いのが特徴)
- 現在の経大腿 (TF) 義肢ソケットは、多くの場合、機能を制限し、快適さを欠き、断端の問題を引き起こす
📕 田沢英二. 日本義肢装具学会誌 6.4 (1990): 293-301. >>> doi.
■ NU-FlexSIV (New Design)
- Northwestern University Flexible Sub-Ischial Vacuum (NU-FlexSIV) ※新技術
- 牽引の仕組みは『真空』(ソケット内に真空を作る仕組みによって牽引される)
- 坐骨結節から約25mm遠位のトリムラインが骨盤に干渉しない。
- 快適性と機能性を向上させるソケット構造と主張されている
🌍 参考サイト >>> site.

スライド2

[背景・目的] 目的Northwestern University Flexible Sub-Ischial Vacuum (NU-FlexSIV) Socketとischial containment (IC) Socketの歩行バイオメカニクスを比較すること。

[方法] デザイン7週間の期間を2回設けた無作為化クロスオーバー試験。設定個人の義肢装具クリニックと大学の研究室。参加者30名が登録され(n=30)、25名が全データ(n=18)または部分データ(n=7)で研究を完了した。介入方法2つのカスタムソケット(ICとNU-FlexSIV)を7週間フルタイムで装着し、ソケット納入後1、4、7週目に検査を実施した。主なアウトカム評価項目ソケット納入後1、4、7週目に歩行分析を行った。股関節の動きと冠状面ソケットの安定性に関連する特定の歩行変数におけるソケット間の差異を評価した。

[結果] 7週目に両方のソケットのデータがある参加者(n=19)では、自分で選択した通常歩行速度でのソケット間の歩行変数に有意差はなかった。しかし、全参加者、全時点で評価した場合(n=25)、ソケットの有意な主効果があり(P=.013)、自己選択した通常歩行速度において、NU-FlexSIVソケットの方が義足側矢状面股関節可動域が有意に大きいことがわかった。その他の有意な効果は認められなかった。

[結論] NU-FlexSIVソケットはICソケットと比較して、片側大腿切断者の股関節の動きと冠状面ソケットの安定性に関連する歩行バイオメカニクスを変化させないことが示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

次の動画を見ていただきたい。
(1分30秒程度)

どうだろうか。実にスムーズだ。
真空圧で牽引を得るため、これまでのソケットのような位置関係の細部を気にしたり、ピンを突っ込んだりという手間がない。

ライナーにピンがない姿、というのは、はじめ違和感がある。
実は、いま担当している患者さんがまさにこのシステムを利用している。
(その方の義足は真空をより強くするために「電動ポンプ」を使用)
実際の使用感はどうか。
今回の研究にあった通り、特に「股関節の稼働が制限されないな」という印象を持っている。
そして着脱がスムーズ。
一言でいえば、快適だ。

歴史を紐解けば、1990年くらいには四辺形ソケットから坐骨収納型ソケットへの革命が起きた。
そしていま、坐骨収納型ソケットから真空のソケットへの革命が起きている。
まったく、技術革新というのは前進をやめないものだ。
僕たちに必要なことは、それぞれのソケットの特徴を把握し、動作指導に生かすこと。
例えば、真空のソケットではこれまでより歩行中の股関節運動の指導が功を奏す可能性が高い。
坐骨収納型ソケットでは構造上の限界があった動作ができるようになっている。
月並みだが、技術革新についてゆかなくては!

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