身体のバネ機能はクッキリ評価しにくい
📖 文献情報 と 抄録和訳
異なるスポーツの男女770名におけるスクワットジャンプとカウンタームーブメントジャンプの違いについて
📕Kozinc, Žiga, et al. "The difference between squat jump and countermovement jump in 770 male and female participants from different sports." European Journal of Sport Science (2021): 1-9. https://doi.org/10.1080/17461391.2021.1936654
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✅ 前提知識:スクワットジャンプとカウンタームーブメントジャンプ
- スクワットジャンプ (squat jump: SJ):コンセントリック ジャンプで、ジャンパーはセミ スクワットの静止位置からスタートする。ジャンパーは下向きの準備段階(つまりカウンタームーブメント)を使用しないため、ジャンプは筋肉のプレストレッチを必要としない。
- カウンタームーブメントジャンプ (countermovement jump: CMJ):膝と腰を曲げて予備のディップを行い、すぐに上向きに伸ばして地面から垂直にジャンプ。「ストレッチショートニングサイクル、Stretch-shortening cycle: SSC」を利用しており、関節複合体内に弾性エネルギーを瞬間的に蓄えることでパフォーマンスを最大化する。ほとんどのアスリートは、スクワット ジャンプよりもカウンタームーブメント ジャンプで 3 ~ 6 cm 高くジャンプできる。
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[背景・目的] これまで、カウンタームーブメント(CMJ)とスクワットジャンプ(SJ)の差が大きいと、伸張-短縮サイクルを利用する能力が反映されるため、有益と考えられてきた。しかし、ジャンプの差が大きいと、筋腱の弛緩が大きい、あるいは弛緩を素早く取り込む能力が低いことを示唆する可能性があり、必ずしもそうではないとの強い主張がなされている。本研究の目的は、9組の若いアスリートを対象に、SJとCMJ、およびCMJとSJの差(CMJSJDiff)を調査することであった。
[方法-結果] 本研究には、様々な種目のアスリート712名(平均年齢15.7~36.3歳)、体育系学生58名(平均年齢19.6歳)が参加した。本研究の主要な発見は、SJとCMJのパフォーマンスが優れているグループは、CMJSJDiffが大きくないということであった。例えば、SJとCMJの高さは短距離ランナーで最も高く、長距離ランナーで最も低かった。一方、CMJSJDiffは体育学部生とスピードスケーターでそれぞれ最大と最小が示された。男性アスリートは女性アスリートよりCMJSJDiffが高いが、その差は非常に小さかった。
[結論] CMJSJDiffが大きいことは、従来からポジティブに捉えられてきたが、今回の結果は、伸張-短縮サイクルを利用する能力が優れていることと、急激な力の発生や筋肉の過度の弛緩が苦手なことの両方を示している可能性がある。CMJSJDiffと運動能力の指標との関連性を直接的に調査するためには、さらなる研究が必要である。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
ちょっと分かりにくい結果と結論だったと思う。
かなり簡略化して示してみる、多少飛躍。
<従来の考え方>
■ SJ = 素早い筋収縮能力
■ CMJ = 素早い筋収縮能力+バネ機能(SSC)
だから、
■ バネ機能(SSC) = CMJ − SJ
だが、今回の研究で示されたのは、話はそんなに簡単ではないということ。
<今回の研究によって示された可能性>
■ SJ = 素早い筋収縮能力
■ バネ機能(SSC) = 素早い筋収縮能力 + 腱の力学的特性
■ CMJ = 素早い筋収縮能力 + 腱の力学的特性
■ バネ機能 = ???
つまり「バネ機能には、素早い筋収縮能力が含まれちゃってるよね」という話だ。
その場合、CMJとSJの差分は、バネ機能(SSC)を単純に示さなくなる。
これは、SSCを構成する要因の1つであるインターナルショートニングを考えれば、仕組みとしても腑に落ちる。
✅ SSCを構成する要因
1. インターナルショートニングをつくり出す能力:SSCのためには、筋腱複合体のうち、収縮要素である筋を固める必要がある。筋が固定されていないと、張力が腱の弾性エネルギーとして蓄積されない。
2. 腱の力学的特性:一定の荷重負荷に対して蓄積される弾性エネルギー量は、腱の力学的特性によって異なる。
3. 多関節の協働;運動連鎖:例えば、投球動作は最終的にボールに力を加えるのだが、下肢からのエネルギーの伝達が非常に重要な課題だ。ジャンプにおいても最終的に地面に力を加え、反力で動くのだが、体幹や股関節、膝関節の力発揮のタイミングや強さが大きく影響することが推察される。
この研究から学べることは、「差分を評価指標として用いる場合には重複に注意せよ」だ。
MECEという、論理的思考のフレームワークがある。
MECEとは、1つの大きな領域をいくつかの区分に明確に分けて、互いに重複せず、全体として漏れがないという状態。
例えば、チャーハンはご飯、グリーンピース、にんじん、卵、チャーシューからできていて、それ以外はない、という状態はMECEを満たしている。
今回の場合には、バネ機能(SSC)を測ろうとしたときに、素早い筋収縮がSJにもCMJにも重複してしまったがために、エラーが起きているかもしれない、ということ。
新たな評価指標をつくるときには、重々注意していきたい点だ。
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