漸進的筋力トレーニング。筋力だけでなく骨量も増大する
📖 文献情報 と 抄録和訳
高齢者における筋力と骨密度の同時増加を目的とした漸進的レジスタンストレーニング。システマティックレビューとメタアナリシス
📕O’Bryan, Steven J., et al. "Progressive Resistance Training for Concomitant Increases in Muscle Strength and Bone Mineral Density in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis." Sports Medicine (2022): 1-22. https://doi.org/10.1007/s40279-022-01675-2
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✅ 前提知識:漸進的筋力トレーニングとは?
■ 高齢者の身体機能向上のための漸進的抵抗性筋力トレーニング
- 高齢者は、一般的に加齢とともに筋力が低下する。このような筋力の低下やそれに伴う筋力低下により、高齢者は日常生活に支障をきたしたり、転倒したりしやすくなる。漸進的抵抗トレーニング(progressive resistance training, PRT)は、参加者が筋力の向上に応じて徐々に増加するある種の抵抗に対して筋肉を行使する運動の一種である。
- 121の無作為化比較試験(参加者6,700人)から、力や抵抗に逆らって筋肉を動かすと、高齢者がより強くなることが示されている。また、歩行、階段昇降、椅子からの立ち上がりなどの単純な動作のパフォーマンスも向上する。椅子から立ち上がる、階段を上るなどの動作の向上は、一般的に歩行速度よりも大きい。さらに、これらの筋力トレーニングは、入浴や食事の準備など、より複雑な日常動作を含む高齢者の身体能力も向上させた。PRTはまた、変形性関節症の人々の痛みを軽減した。
📕 Liu, Chiung‐ju, and Nancy K. Latham. Cochrane database of systematic reviews 3 (2009). >>> doi.
🔑 Key points
- PRTは、高齢者の筋力と骨密度を同時に増加させるため、高齢期の筋肉と骨の減少を予防するために使用することができる。
- ほとんどのエビデンスが、共通のトレーニング特性の違いに関係なく、筋力の増加を実証したのに対し、骨密度の改善はやや不確実であった。
- 高齢者の漸進的レジスタンストレーニングプログラムによる筋力と骨密度の二重の改善を最大化するには、週3回のセッションを行い、体重負荷/衝撃負荷エクササイズ(例:ジャンプ、ステップ)を取り入れ、エクササイズごとに1~2セットを行い、1反復最大負荷の75~80%に相当する負荷を採用することが有益であると思われる。
[背景・目的] 高齢者は、筋力と骨量の低下が顕著であり、相互に密接に関連している。高齢者における加齢に伴う筋力および骨密度(bone mineral density, BMD)の低下を同時に逆転または減速させるPRTの有効性は、依然として不明である。研究目的:高齢者を対象としたPRTによる下半身の筋力とBMDの同時変化を定量化し、これらの変化が、トレーニング方法(レジスタンスのみ対レジスタンスとウェイトベアリングの複合エクササイズ)、回数、ボリューム、負荷、プログラムの長さにどう影響されるかを明らかにすること。
[方法] MEDLINE/PubMedおよびEmbaseデータベースを用いて、2021年6月1日以前に英語で発表された論文を検索した。65歳以上の男性および/または女性におけるPRT後のレッグプレスまたは膝伸展1回反復最大値および大腿骨/股関節または腰椎BMDの変化を報告した無作為化対照試験を対象とした。ランダム効果メタ分析およびメタ回帰により、筋力(標準化平均差)およびBMD(平均差)の変化率(△%)に対するレジスタンストレーニングおよび個々のトレーニング特性の効果を決定した。エビデンスの質は、Cochrane risk-of-bias tool(バージョン2.0)およびGRADE(Grading of Recommendation, Assessment, Development, and Evaluation)基準により評価された。
[結果] 780件の研究が同定され、14件が組み入れられた。PRTは、筋力(△標準化平均差=1.1%;95%信頼区間 0.73, 1.47;p ≦0.001)および大腿骨/股関節BMD(△平均差=2.77%;95%信頼区間 0.44, 5.10;p =0.02)を増加させたが、腰椎のBMD(△平均差=1.60%;95%信頼区間 - 1.44, 4.63;p =0.30)ではない。改善の確実性は、BMDと比較して筋力の方が高く、異質性が低く(I2 = 78.1% vs 98.6%)、全体的なエビデンスの質が高いことが証明された。筋力とBMDの同時向上はトレーニング頻度が高いほど有利であり、筋力の向上は抵抗のみの運動と高い負荷量が有利であり、BMDの向上は抵抗と体重負荷運動の併用、低い負荷量、高い負荷量が有利であったが、いずれのトレーニング特性も両方の結果に有意に影響しなかった(p>0.05)。
✅ 図. 個々の研究ごとの下肢筋力と大腿骨/骨密度(BMD)の変化の相関(黒丸)とその95%信頼区間(破線楕円)。緑の菱形は、それぞれのアウトカムについて個別にプールされた推定変化量を示し、青の菱形は2つのアウトカムの総合的な複合効果を示している。赤い楕円は複合効果の95%信頼区間を、黒い楕円は今後の研究の予測区間を表している
[結論] PRTは、高齢者において下肢筋力と大腿骨/股関節骨密度を同時に増加させ、筋力向上の確実性はより高いものであった。したがって、高齢者の筋力低下と骨量低下を同時に予防するプログレッシブ・レジスタンス・トレーニング・プログラムの効果を最大化するためには、BMDを改善する可能性がより高いトレーニング特性を取り入れることが推奨される。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
トレーニングには過負荷の原則というものがある。
✅ トレーニングにおける過負荷の原則とは?
「過負荷の原則」というのは、「トレーニングを行うときは、ある一定以上の負荷をかけないと身体は強くならない」ということ。
言い換えれば、毎日同じ練習ばかり行っていても、身体がその負荷に慣れてしまい運動効果が現れにくいということになる。
🌍 参考サイト >>> site.
すなわち、トレーニング施行者の筋力の増大に伴い、負荷量も増大しなければ、トレーニング効果は出にくくなるということ。
これは、当たり前のことなのだが、臨床現場においては疎かになりやすいことの1つだと思っている。
理由として大きいのは「モニタリング・負荷量を再検討するタイミングの曖昧さ」だろう。
ここに、習慣化の考え方『ロバストリズム』が使える。
✅ ロバストリズムとは?
- 超人たちは、必ずと言っていいほど「ルーティーン」を持っている
- イマヌエル・カントは毎日3時半ぴったりに必ず散歩に出かけた。必ず3時半ぴったりだったので周りの人々はカントを時計にしていたくらいだった
- 村上春樹は「繰り返すこと自体が-重要になってくるんです。一種の催眠状態というか、自分に催眠術をかけて、より深い精神状態にもっていく」と語っている
- 方法は以下の通り
①習慣化したい行動を明確にする(SMARTの法則のT以外)
②その習慣を行う頻度、時間帯、曜日(or 日付)をきっちりと決める
③その頻度、時間帯、曜日(or 日付)を変えずに実行する
例えば、「毎週月曜日は負荷量検討の曜日」と決めてしまう。
するとゴミ捨てを忘れないように、必ず1週間に1度は漸進が検討される。
このような仕組みづくりが大切になってくると思う。
そして、驚いたのは漸進的筋力トレーニングがBMDにも効果を有したこと。
筋とは、その役割の多くが「関節を回転させる」こと。
すなわち、関節に対して回転力を付与するものであって、骨に長軸圧を加えるものではありにくい。
そして、骨合成を引き起こす骨細胞の活性化は荷重による細胞外液の液流がトリガーとなる。
✅ 図. 骨への力学的負荷により生ずる骨細胞に対する液体剪断応力(FSS fluid shear stress)骨に対する力学的負荷は,主に骨細胞により骨細管内(もしくは骨小孔) の細胞外液流の変化に基づく fluidshear stress; FSSとして感知される.(📕井上, 2016 >>> site.)
つまり、主に回転力を与える筋出力によっては骨は鍛えられにくそう、という仮説がたつ。だが、効果は小さく不明瞭ではあるものの、有意な効果を認めたという。
これは、筋トレへのモチベーションを高めることにつながる1つの証拠になると思う。
筋力向上には興味はないが、骨粗鬆症を気にしている高齢女性を筋トレ介入に誘うことができる。
とにかく、漸進だ。
そして継続的な漸進のためには、仕組みがいる。
負荷量漸増の曜日、まずは自分の中で決めてみようかな。
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