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TKAから5年。痛みの回復はまだ続いています

📖 文献情報 と 抄録和訳

TKA後1年経過しても痛みが持続する患者の多くが5~7年後までに改善を報告している:混合法による研究

📕Sellevold, Vibeke Bull, et al. "Many patients with persistent pain 1 year after TKA report improvement by 5 to 7 years: a mixed methods study." Clinical Orthopaedics and Related Research® (2022): 10-1097. https://doi.org/10.1097/CORR.0000000000002183
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[背景・目的] 人工膝関節置換術(total knee arthroplasty, TKA)を受けた患者の約20%が12ヶ月後に痛みを訴えている。TKA 術後 5~7 年経過した患者の術後疼痛に関する経験を、定性的・定量的手法により調査した研究はない。質問・目的:混合研究において、我々はプライマリーTKAから7年後までの持続的な痛みとの付き合い方について、患者の経験を調査した。我々は尋ねた。TKA術後1年目に持続的な痛みを訴えた患者のサブグループ分析では、術後5~7年目の時点で、患者はどのように持続的な痛みと付き合っているのか?

[方法] この追跡調査は、変形性関節症のためにTKAを受けた患者の痛み、症状、健康関連QOLに関する縦断的研究の一部であった。本研究では、縦断的研究で確認された、術後12ヶ月で歩行に対する痛みの干渉に改善が見られなかった患者(22%[202人中45人])のサブグループを対象とした。対象は、このサブグループのうち、病院で5年後のフォローアップに参加し、病院から車で2時間以内の場所に住んでいる患者31人すべてであった。8人の患者が病気や死亡のために参加を断念したり、参加できなかったりした。したがって、最終的なサンプルは23人の患者(女性13人、男性10人)で構成された。参加者の手術時の平均年齢は66±10歳であった。参加した23人と除外された22人の間に、社会人口統計学的なベースラインデータの差はなかった。量的データを質的インタビューでフォローアップし、調査する混合法アプローチが採用された。使用した手法は、術前、術後12カ月、術後5年のBrief Pain Inventoryと、半構造化インタビューガイドである。個人面接は、術後5年から7年のある時点で、その時点で痛みがどのように経験されたかを把握するために行われた。サンプル数が少ないため、量的分析では、対象者と非対象者の人口統計学を比較する際に、記述統計学とノンパラメトリック統計学に焦点を当てた。さらに、2つの反復測定多変量混合モデルを用いて、患者内および患者間の変動を推定し、痛みの結果に対する時間の影響を評価した。

[結果]
①量的データの結果
・歩行時の痛みは術後12ヶ月から5年まで減少した(推定平均スコア7 vs 4、平均値の差-3 [95% CI -5 to -2]、p < 0.001)。日常生活での痛みは術後12か月から5年まで減少した(推定平均スコア6 vs 3、平均値の差-3 [95% CI -4 to -1]、p < 0.001)。
・疼痛強度(平均疼痛)は術後12ヵ月から5年まで減少した(推定平均スコア5 vs 4、平均値の差-1[95%CI -3~0]、p = 0.03)。結果は、整数に切り上げた点推定値で示した。

②質的データの結果
・定性的データ分析により、3つのテーマが得られた:(1) TKA後の制限の持続、(2) 時間の経過とともに回復した健康状態、(3) 身体的課題の複雑性。
・特定の動作における断続的な痛みは、日常生活におけるいくつかの動作に制限をもたらし、5年以上持続するようであった。
・複数の疼痛部位と併存疾患の存在は、時間の経過とともに回復する健康状態を阻害するようであった。

[結論] 術後疼痛が残存する患者群において、術後12ヶ月経過後も術後疼痛が残存し、日常生活における活動が制限されていたが、5年~7年経過後には日常生活における疼痛の影響は少なくなっているようであった。臨床医は、これらの知見をもとに、痛みの改善が遅れている患者に対して、回復、リハビリテーション、痛みや機能障害への対処法について、より現実的な期待を伝え、指導することができる。しかし、術後12ヶ月以上経過した患者が痛みを訴える場合、他の理由を除外し、時間の経過とともに痛みが変化する可能性に注意することが不可欠である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

鶴は千年、亀は万年。
生物には、その種に固有の寿命がある。
そして、寿命に応じた『成長曲線』がある。
たとえば、人間の寿命は80-100年間として、十数年かけて成長/成熟し、成人に至る。
一方、カエル(アマガエル)では寿命が数年、オタマジャクシ→カエルが1-2ヶ月。
その前提を知っているかどうかで、目の前の現象の価値づけが変わる。
「生まれて3ヶ月経った。まだ寝てるんだけど・・・」
これは、人間においては「普通」だが、カエルにおいては「間違いなく問題」である。
このように、その種固有の成長曲線を知っていることは、特に親にとって重要だ。

一方、リハビリテーション医療に関わっていると、疾患や症状固有の『回復曲線』あることを知る。
・筋肉痛なら数日
・創傷なら2週〜4週
・骨折ならその部位によって(Gurlt & Coldwell)
・脳卒中の運動麻痺なら3-6ヶ月

今回の抄読研究は、TKA後の疼痛に関して、回復曲線を示した。
その曲線は、驚くべきことに術後5年間経った後でも回復が続いている患者が多かった。
随分と、長い期間だ。
「先生、まだ膝が痛いんですけど、もう治らないんでしょうか?」(退院時/術後2ヶ月に)
こんな質問をされたとき、TKA後の回復曲線を知っていると、落ち着いて回答できる。
「〇〇さん。この手術後の痛みは、とてもゆっくりと、しかししっかりと回復が続いていくことが多いんですよ。5年経っても、まだ痛みが良くなり続けるという人も多いんです。だから、まだまだ治り続けますよ」
この言葉は、逃げでも虚偽でもなく、事実に基づいている。
その後ろ盾が、言葉に落ち着きと重みと安心感を与える。

春夏秋冬は、生物共通、だが期間の長短はある。
同じように、疾患や症状の1つ1つに、特有の期間における季節がある。
『回復曲線』、その言葉に集約されるだろう。

人間にもそれに相応しい春夏秋冬があると言えるだろう。
十歳にして死ぬものには、その十歳の中に自ずから四季がある。
二十歳には自ずから二十歳の四季が、三十歳には自ずから三十歳の四季が、五十、百歳にも自ずから四季がある。
十歳をもって短いというのは、夏蝉を長生の霊木にしようと願うことだ。
百歳をもって長いというのは、霊椿を蝉にしようとするような事で、いずれも天寿に達することにはならない。
私は三十歳、四季はすでに備わっており、花を咲かせ、実をつけているはずである。
それが単なる籾殻なのか、成熟した栗の実なのかは私の知るところではない。
もし同志の諸君の中に、私のささやかな真心を憐れみ、それを受け継いでやろうという人がいるなら、それはまかれた種子が絶えずに、穀物が年々実っていくのと同じで、収穫のあった年に恥じないことになるであろう。
同志諸君よ、このことをよく考えて欲しい。

(参考文献:古川薫著「吉田松陰 留魂録」)

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