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TKA術前後の皮膚温度


📖 文献情報 と 抄録和訳

人工膝関節全置換術後の皮膚温度:縦断的観察研究

📕Sharma, Rajrishi, et al. "Skin Temperature following Total Knee Arthroplasty: A Longitudinal Observational Study." The Journal of Arthroplasty (2024). https://doi.org/10.1016/j.arth.2024.06.001
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[背景・目的] 人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty, TKA)は、末期の膝関節炎の痛みの緩和と機能状態の改善に最も効果的な方法である。我々は、片側初回TKAを受けた患者において、手術側の肢の体温が非手術側の肢と比較して術後1年まで上昇したままであるかどうかを評価することを目的とした。

[方法] 前向き縦断的観察研究デザインを用いて、1,094人の患者が登録され、889人の患者が5回のフォローアップのうち最低4回を完了した。術後の経過が正常であった患者は864人であったが、25人の患者は表在性または深部感染症と判断された。術前、術後2週、6週、12週、1年目に、赤外線温度計を用いて手術側と非手術側の膝の皮膚温度を測定した。表在性または深部感染症と診断された25人の患者を対象に、サブグループ解析を行った。

[結果] 手術した膝と手術していない膝の皮膚温度は、すべての経過観察期間において、P < 0.001で統計的に有意な上昇が認められた。しかし、1年後の経過観察では効果の程度は小さく、皮膚温度の平均差は0.3℃だった。

術前(Pre-Op):
・温度差の平均値は0.3°Cであり、統計的に有意ではない(p値未記載だが、温度差が小さいため)。
・ほぼ温度差は存在しない状態。
術後2週(2-week):
・平均温度差は3.78°Cに上昇。
・ボックスとヒゲ(ウィスカー)が広がり、個々の患者間でばらつきが大きいことがわかる。
・温度差は統計的に非常に有意(p < 0.001)。
術後6週(6-week):
・平均温度差は3.3°Cに若干低下。
・データの分布も術後2週に比べて狭まり、ばらつきが減少している。
・温度差の有意性は維持されている(p < 0.001)。
術後12週(12-week):
・温度差はさらに減少し、平均2.48°Cとなる。
・データ分布のばらつきも狭まり、術側膝の炎症が徐々に減少していることを示唆。
術後1年(1-year):
・平均温度差は0.76°Cまで減少し、ほぼ基準値に戻る。
・温度差の統計的有意性はあるものの(p < 0.001)、臨床的にはほぼ無視できる範囲。

感染症サブグループでは、2週間後、6週間後、12週間後の皮膚温度に統計的に有意な差があり、手術群と非手術群の皮膚温度の差はより大きかった(非感染症群では4.05℃対3.78℃)。しかし、感染症患者と非感染症患者の2週間後の臨床的な差はわずかであった(0.27℃)。

[結論] この研究により、患者と外科医との術後のやりとりが改善される可能性がある。TKA後の皮膚温度は、最初は上昇し、時間の経過とともに改善するのが普通であるが、臨床的にほとんど差がなくなるまでには1年を要することもある。感染患者と非感染患者の皮膚温度の上昇にほとんど差がないため、皮膚温度が感染症の信頼性の高い指標であるという根拠はほとんどない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「なんか、膝が熱くありませんか?触ってみて下さい」

この類の患者さんからの問いかけは、術後の方に多く聞かれる。
そのときに触診して、「確かに熱いですね。まだ炎症が残っているのでしょうね」という答えを返すことが多い。
では、この熱さはどのくらいして戻るものなのだろうか。
また、感染を示すものなのだろうか。

今回抄読した研究では、術後1年間にわたって、皮膚温度の調査を行った。
その結果として、術後半年間は、皮膚温度の平均差が2.5度程度は残っており、これは感染、非感染問わずそうだった。
そして、術後1年後においても、有意差は残存していたが、この平均差はほぼ無視できる程度の温度差であり、1年くらいかけて皮膚温度は正常化されることが明らかとなった。

「なんか、膝が熱くありませんか?触ってみて下さい」
「確かに熱いですね。膝を手術された方ですと、多くの方が1年間くらいかけて皮膚温度がもとに戻ることがわかっています。そして、熱いからといって、それが即感染を示すものではないですので、安心して下さい。」

患者さんの問いへの受け答えが、少しレベルアップした。

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