臨床予測ルール。脳卒中者の歩行自立を急性期からも回復期からも予測するモデル
📖 文献情報 と 抄録和訳
脳卒中患者における退院時歩行自立の臨床的予測ルールの開発。決定木アルゴリズムによる解析
📕Inoue, Yu, et al. "Developing a Clinical Prediction Rule for Gait Independence at Discharge in Patients with Stroke: A Decision-Tree Algorithm Analysis." Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 31.6 (2022): 106441. https://doi.org/10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2022.106441
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 脳卒中患者の退院時歩行自立度に関する臨床予測ルール(clinicala prediciton rule: CPR)を決定木アルゴリズムを用いて開発し、リハビリテーション病棟入院時のCPRの有用性を検討する。
[方法] 急性期以降の脳卒中患者181名を対象とした。10重クロスバリデーションを用いたカイ二乗自動交互作用検出解析法を用いて,入院時に入手しやすいデータを用いたCPR 1と入院1ヶ月後に入手しやすいデータを用いたCPR 2を作成し,退院時歩行自立度の予測に使用した.
✅ CPR1(入院時)、CPR2(入院1ヶ月後)の構成
CPR1:FIM-トイレ、認知機能低下有無、せん妄有無、発症前の介護必要性
CPR2:FIM-トイレ、変形性関節症の存在、FIM-問題解決、発症前の介護必要性
[結果] トイレの自立度を最初のノードとして抽出し,退院時歩行自立度予測のためのCPRを2つ作成した。CPR1にはせん妄の有無が含まれた。CPR2には問題解決能力が含まれた。CPR1の精度は84.5%,曲線下面積は0.911,CPR2の精度は89.0%,曲線下面積は0.958であった.
[結論] トイレの自立は,脳卒中患者の急性期退院に向けた歩行の自立を予測する上で重要な因子である.急性期におけるせん妄や認知機能低下への早期介入とトイレ介助は、退院時の歩行自立の可能性を高める。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
Clinical Prediction Rule (CPR)という言葉を目にすることが増えてきた。
臨床予測ルール。
「ふむふむ、何かを予測するルールなのだな」
だが、例えば多変量解析において、歩行自立と独立して関連する因子を分析することと、何が違うのだろう?
明確に、説明できるだろうか。
違いは、大きく2つある。
①評価指標を2つ以上組み合わせること、②予測確率を与えることである。
たとえば、歩行自立に対して、多変量解析では「FIM-トイレ」と「認知機能低下」と「せん妄」と「発症前の介護必要性」が独立して関連する、ということを明らかにする。
そして、それぞれの要因が帰結に対してpositiveなのかnegativeなのかという影響の方向性と、その大きさに関する情報を与える。
しかしながら、この従来の多変量解析の結果の示され方では、結局、判断の多くはセラピストの主観に委ねられる。
なぜなら、影響がpositiveかnegativeかという情報がいくつか集まったときに、どうしたらいいかは、はっきり分かりにくいから(図はHip fractureの例になっているがあしからず)。
一方、CPRは複数因子を組み合わせ、予測確率を与える。
今回の研究でいえば、CPR1は「FIM-トイレが5点以上で病前に介護を必要としていなかった患者は98.2%が自立する」という情報をセラピストに与える(その他にもnodeがいくつかある)。
そして、セラピストは「ふむ。98.2%か。じゃあ、退院目標としては歩行自立が妥当そうだ」となる。
すなわち、CPRは影響の方向性や大きさといったぼんやりしたものではなく、はっきりとした確率を与えることで、よりセラピストの臨床判断につながりやすい。
📕Adulkasem, Nath, et al. International Journal of Environmental Research and Public Health 19.1 (2022): 177. >>> doi.
だが、忘れてはいけない。
世の中に完全はなく、ただ、漸進がある。
CPRが進みきった先に、頼りきった先に、何があるか。
人間の思考の欠如だ。
いずれ、CPRと技術が組み合わさり、その予測は自動化されることだろう。
そして、ほぼ判断に近いものを「機械」が担うことになる。
怖いことには、そのアルゴリズムの中身をほとんどの人間が、理解しない状態で使用されるであろうことだ。
冷蔵庫や携帯電話の仕組みを、誰も知らないように。
ただ、スイッチを押すだけで、その利便性のみを享受する僕たち。
そんな、世の中。
それは、『良い』ことなのだろうか。
強く問う。
『良い』ことなのだろうか。
手塚治虫「火の鳥」に、こんな局面がある。
未来の人類世界において、人々は、自分たちが作り出した最強の人工知能が搭載された機械に、国の運営のすべてを任せていた、その決定にしたがっていた。その結果、各国の機械同士が出した結論は、「戦争しかない」であった。人々は滅亡への戦争に盲進していくのだが・・・。その政治家に対して、以下のセリフがある。
なぜ機械のいうことなどきいたのだ!
なぜ人間が自分の頭で判断しなかった。ええっ?
考えることは、どこまでも放棄したくはない。
🔥 追加考察
『世の中に完全はなく、ただ、漸進がある。』
その世界にあってCPRは。
ただ、recommend(推奨)を与える存在に甘んじて、
それ以上の地位を与えてはならないような気がしている
CPRが裁定者として権威を振るえるのは、
“より先がない世界” であろう。
だってCPRは、そのモデル自身が誕生した “より前の情報” でつくられているのだから。
新しい利便性、素晴らしい、甘美な響きだ👏
だが、それを享受する前に、飛びつく前に、腫れ物に触れるような慎重で、ゴム手をして、新しい倫理観の必要性が検証されるべきだろう。
強大な利便性のコインサイドに、強大な暴力が刻まれている。
歴史上の例をあげれば、枚挙にいとまがない。
ぼくはいま、CPRモデル研究チームの歯車のひとつになっている。
せっかくの機会だ。最強のCPRをつくりたいと、心からそう思っている。
だが、完成したCPRモデルの使い方、解釈上の注意点について熟知し、ガイドできるようになっておきたいと、より強く思う❗️
「いや、自分は技術者、研究者で、よいものを作りたかっただけで。使い方は、使うひとや政治家が考えたもので…。」
数多の兵器開発者たちの口から聞こえた言葉だ。
これは、研究の利用可能性を認めたり、高めたりすることとはまた違っていて、「無責任」と呼ばれるものじゃないか!?
責任を、思いたい。民主主義でいたい。少なくも、今回の考察を深め続ける歩みは止めない。
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