負荷(load)という用語。誤用か、誤用でないか?
📖 文献情報 と 抄録和訳
(1). スポーツ・運動科学における「負荷」という用語の誤用
(2). 「トレーニング負荷」の構成。なぜそれが適切で科学的なのか
(1). Staunton, Craig A., et al. "Misuse of the term ‘load’in sport and exercise science." Journal of Science and Medicine in Sport 25.5 (2022): 439-444. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2021.08.013
(2). Impellizzeri, Franco M., et al. "The ‘training load’construct: Why it is appropriate and scientific." Journal of Science and Medicine in Sport 25.5 (2022): 445-448. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2021.10.013
🔗(1). DOI, PubMed, Google Scholar
🔗(2). DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 文献(1)の主張:トレーニング負荷という用語は誤用である
- スポーツ・運動科学者は、国際単位系を遵守する義務がある。ジャーナル編集者や査読者は、誤った用語を使用する研究に対してより批判的でなければならない。
- 「トレーニング負荷」や「プレーヤー負荷」という用語は非科学的であり、使用しない方がよい。スポーツ・運動科学者は、運動を記述するために使用される用語について批判的に考えることが奨励される。
- その理由は「負荷」は機械的な変数であり、適切に使用される場合には力を表すため、国際単位系(International System of Units; SI)由来の単位であるニュートン(N)を伴う必要があるから(図;>>> site.)。
- スポーツ・運動科学者は、ACSMが推進するFITT-VP原則を運動処方とモニタリングに使用することができる。頻度、強度、時間、種類、量、進行という用語は論理的であり、機械的な構造の誤用は避けられる。
✅ 文献(2)の主張:トレーニング負荷という用語は誤用ではない
- トレーニング負荷は、相互に関連する他の下位次元を統括する高次の構成要素に付与されるラベルに過ぎない。このマルチレベルの構造は、研究プロセスをサポートするフレームワーク(名付け親ネットワーク)を提供し、さらに実際の応用も可能にします。
- 負荷は言葉であるため、「非科学的」であることはありえない。言葉や用語の「使用」または「誤用」は、現在の理解に基づくべき定義に完全に依存している。誤用は、ある用語が文脈から外れたり、一方的な視点に従って解釈されたりしたときに起こる。
- 力学の分野は、負荷という用語を独占しているわけではなく、多くの科学的分野でさまざまな意味をもって使用されています。
- 構成要素を記述する際に国際単位系(SI)に準拠した用語に依存する「義務」は不適切である。SIは、トレーニング負荷を記述するのではなく、どのように測定するかに関係する。つまり、SIは運用上の定義に関係し、構成的(記述的)な定義には関係しない。
- スポーツ・運動科学における用語の廃棄に関する議論よりも、記述や定義の共有化・標準化に関する議論の方がより適切である。研究者(および実践者)は、トレーニング負荷という用語を使い続けることができる。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
この二論文は、Journal of Science and Medicine in Sportにおいて連続して掲載された。
どちらが正しいというより、「言葉の定義・使用方法が妥当なのか?」について議論がされたこと、このことが興味深い。
別に、どっちでも良くない?なんとなく通じるし。
そうでもないのだ。とくに研究者の場合には。
3つ、理由があると思う。
▶︎①表象されるイメージの混沌化
- たとえば、「群馬」と言われたときに何をイメージするか?
- 「群馬県でしょ?」、実はそれ以外にもある
- 群馬町、群馬郡・・・
- それら「群馬」という言葉に対応する意味が複数ある場合、AさんとBさんで頭に思い描くイメージが違ってしまい、結果、会話がうまくいかないことになってしまう
▶︎②検索の阻害になる
- たとえば、装具についての文献を収集したい場合
- 「Brace」と入力した時に、どうなるか?
- 装具以外の意味がたくさんある「Brace」は、装具関連の論文以外にもたくさんヒットしてしまう
- そのため、それ以外の用語による絞り込みが必要になる
▶︎③論理構造の破綻
- 研究は、論理的思考から鑑みて、考察を進めていく
- たとえば、「AはB、BはC。ならば、AはC」という考え方がある
- この場合、用語の定義としてAの意味が複数あったり、曖昧だったりすれば、結論としてのAはCが大きく揺らぐことになる
- その結果、間違った推論・結論に至ってしまう
言葉の定義には、敏感になった方がいい。
改めて、それを教えてくれた二論文であった。
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