身体活動と転倒。2世代間における違い
📖 文献情報 と 抄録和訳
2世代の高齢女性における転倒と身体活動の違い
[背景・目的] 転倒と運動不足は加齢とともに増加する。しかし、異なる時代に生まれた高齢者における身体活動、転倒、およびそれらの関連は不明である。
[方法] Australian Longitudinal Study on Women's Health(女性の健康に関するオーストラリア縦断研究)の1999年(n=8,403、平均(SD)年齢:75(1)歳)と2019年(n=7,555、71(1)歳)に追跡調査票を記入した1921-26年生まれと1946-51年生まれの女性。自己報告による過去12ヵ月間の非傷害的転倒および傷害的転倒、ならびに1週間の身体活動量および種類(早歩き、中強度および強強度)を、カイ二乗検定を用いてコホート間で比較した。身体活動と非傷害的転倒および傷害的転倒との関連は、有向無サイクルグラフを用いた多項ロジスティック回帰を用いて推定した。
[結果] 後期(1946-51年)コホート(59%)では、前期(1921-26年)コホート(43%、p<0.001)と比較して、世界保健機関(WHO)が推奨する週150-300分の身体活動に達している割合が高かった。
後期コホートでは、傷害を伴わない転倒を報告した割合が高かった(14%対8%)。両コホートとも、傷害を伴う転倒の割合は同程度であった(1946-51年:15%、1921-26年:14%)。
両コホートにおいて、150~300分の身体活動への参加は、非侵害的転倒(調整オッズ比、95%CI:1921~26年:0.66、0.52~0.84;1946~51年:0.78、0.63~0.97)および傷害的転倒(1921~26年:0.72、0.60~0.87;1946~51年:0.78、0.64~0.96)の低オッズと関連していた。
[結論] 推奨レベルの身体活動への参加は、両コホートにおいて転倒の減少と関連していた。しかし、ジェネラティビティーには差があり、遅く生まれた女性ほど転倒が多く、身体活動も多かった。今後の研究では、ジェネラティビティー差に寄与する理由を検討することが可能であろう。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
まず、ちょっと考えてみて欲しい。
「最近の時代、昔と比べて、良くなっている感じがしますか?」
広く漠然とした疑問だが、直感的な印象でもいいので、思いを馳せてみてほしい。
どうだろうか。ポジティブよりは、ネガティブな印象を持つ人も多いかもしれない。
この約25年、四半世紀・・・。
いろいろなことが変わってきた。
本当に、色んなことが変わってきたように思う。
その中で、約70-75歳の女性の身体活動と転倒はどうなったか?
今回抄読の研究は、2つのコホートにおいてその疑問を明らかにした。
その結果として、身体活動は最近の高齢女性の方が推奨値に近く、怪我をしない程度の転倒も最近の女性の方が多く、怪我を伴う転倒は同程度であった。
そして、両コホートにおいて身体活動の増加は、怪我を伴う転倒リスクの低下と関連していた。
すなわち、最近の高齢女性は、『よく動き、よく転倒するけれども、怪我はしにくくなった』。
どうだろうか・・・。
これは良くなった、と言える変化ではないだろうか。
世界は、少しずつ良くなっているのだ、着実に。
だが、その事実を、自分の血肉にできているだろうか。
世界が良くなっていることを実感し、幸福感を得られているだろうか。
人間には、『ネガティブ本能』と呼ばれるバイアスがある。
簡単にいえば、「青信号は気にならない、赤信号はとても気になる」という本能である。
課題ばかりが溢れかえり、達成が軽視される世の中だ。
「大丈夫だ、世界は少しずつ前に進んでいる」
その1つのエビデンスを確立した本研究は、干天の慈雨だ。
漸進に光を当てながら、進もう。
光を当てた部分が、栄養され、生長してゆくのだから。
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