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マッスルメモリーの正体Ⅱ

📖 文献情報 と 抄録和訳

ヒトにおける筋記憶:筋力トレーニング後の筋核の永続性と長期転写制御の証拠

📕Cumming, Kristoffer Toldnes, et al. "Muscle memory in humans: evidence for myonuclear permanence and long‐term transcriptional regulation after strength training." The Journal of Physiology (2024). https://doi.org/10.1113/JP285675
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✅ Muscle Memory (マッスルメモリー;筋記憶)とは?
- 筋トレをして鍛えた筋肉には、人間でいうところの「記憶力」のようなものが備わっている。
- たとえばダンベルの重さ、トレーニング時の動きや負荷、そして鍛え上げられていたときの状態などを、遺伝子レベルで記憶しているという。
- マッスルメモリーの正体として、もっとも有力とされているのは「筋細胞の核の数」に着目したものだ。
- 筋細胞はほかの細胞よりもサイズが大きく、その分多くの細胞核が含まれている。
- この核のおかげで筋肉は肥大することに加え、筋トレで増殖した核はトレーニングを中断しても長期間、消失せず残るという。
- トレーニングを一時的に中断したとしても、マッスルメモリーがあれば身体が反応し、再開から短期間で元の筋肉量に戻る。以前鍛えていた人ほどマッスルメモリーが残りやすいため、トレーニングを再開するとより短期間で効果が出る。

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[背景・目的] 本研究の目的は、ヒトにおける筋力トレーニング後の細胞筋記憶のメカニズムとして、筋核の永続性と転写制御を調べることである。

[方法] トレーニングを受けていない男女12名を対象に、片側の肘関節屈筋の筋力トレーニングを10週間行った後、16週間のトレーニング解除(デトレーニング)を行った。その後、10週間の再トレーニングを両腕(前回トレーニングした腕と対側のトレーニングしていない対照腕)で行った。両トレーニング期間の前後にトレーニングした腕から筋生検を行い、再トレーニングの前後に対照腕から筋生検を行った。筋生検は、線維断面積(fCSA)、筋核、およびグローバルトランスクリプトミクス(RNAシーケンス)について分析した。

[結果]
■ トレーニング → デトレーニング
・最初のトレーニング期間中、筋核はタイプ1線維(13±17%)とタイプ2線維(33±23%)で増加し、混合線維のfCSAは30±43%増加した(P = 0.069)。
・デトレーニング後、fCSAは両方の線維タイプで減少したが、筋核数は維持され、タイプ2線維の筋核数は、以前トレーニングした筋は対照筋と比較して33%の増加を認めた。

■ デトレーニング → リトレーニング
・リトレーニングでは、以前トレーニングされた筋肉は筋核の数とCSAが増加し、筋力も回復した。
・対照的に、未トレーニングの筋肉は筋核の増加は少なく、CSAの増加も限定的であった。
・以前にトレーニングされた筋肉と未トレーニング筋肉では、ERF1, MYL5, COL1A1 などの遺伝子が異なって発現していることが示されている。これらの遺伝子の違いが、マッスルメモリーの基盤となる可能性がある。

[結論] 以前トレーニングした筋の方が筋核の数が持続的に多かったことから、ヒトにおける筋核の付加と永続性が確認された。とはいえ、再トレーニングによるその後の筋肥大への影響は不明であるため、生理学的な有益性はまだ明らかにされていない。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

以前、このマッスルメモリーの有無についてのメタ解析を文献抄読したことがあった。

このメタ解析における結論は、以下のようなものだった。

今回のメタアナリシスで得られた主な知見は、筋核は永久的なものではなく、萎縮期や加齢に伴って消失するというものである。これらの知見は、筋核の永続性に基づく骨格筋の記憶の概念を支持するものではなく、エピジェネティクスなどの他のメカニズムが、骨格筋可塑性のこの側面を媒介するより重要な役割を担っている可能性を示唆している。

つまり、マッスルメモリーの正体は「筋核数の増大ではないかもしれない」ということだった。
だが、今回の抄読研究は、ヒトを対象とした介入研究によって、「いや、やっぱり筋核数の増大じゃない?」という結果を示した。
この領域は、まだ議論の分かれるところなのだろうと思う。
今後は、方法論を洗練した実験的研究の数(1つ1つの事実の数)をさらに増やし、あらためてメタ解析などで束ねて「真実」を探ることが必要になるだろう。

おじさんがおばさんを撃ったのは事実でも、
それがイコール真実とは限らないんじゃねぇか

工藤新一

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