慢性疼痛と脳構造
📖 文献情報 と 抄録和訳
慢性疼痛は、3つの異なる慢性疼痛状態において、前部帯状疱疹、前部および後部島皮質、海馬の灰白質容積の減少と関連している
[背景・目的] 様々な病因や局在性の慢性疼痛は、皮質および皮質下の脳領域における灰白質容積の減少と関連している。最近のメタアナリシスでは、研究間および疼痛症候群間の灰白質容積変化の再現性が低いことが報告されている。
[方法] 身体の部位によって定義される一般的な慢性疼痛症候群(慢性腰痛、n=174;片頭痛、n=92;頭蓋顎関節症、n=39)におけるGMVを対照群(n=296)と比較検討するために、ボクセルベース・モルフォメトリーを実施し、疫学調査で得られた高解像度頭蓋MRIから灰白質容積を決定した。慢性疼痛の有無と灰白質容積の間には、ストレスと軽症うつ病をメディエーターとする媒介分析が行われた。二項ロジスティック回帰を用いて慢性疼痛の予測可能性を検討した。
[結果]
■ 3種類の解析方法と慢性疼痛者の特徴
・3つの閾値に対する対照痛<対照の3つの統計マップの重ね合わせ
・全脳補正:前帯状皮質と左島前部の灰白質容積が少ない(赤)
・ROI(関心領域)分析では、左島後部と左海馬が有意に少ない灰白質容積であった(緑)。
・補正なしの比較では(p < 0.001)、両側で灰白質容積が少ない傾向が明らかになった(青)。
■ 慢性疼痛→海馬灰白質容積減少の媒介要因
・慢性疼痛(X)と左海馬の灰白質容積(Y)との関連を媒介する過去12ヵ月のストレス要因。すべての回帰係数はp値で示されるように有意であった(p<0.05*;p<0.01**)。
・(a)海馬GMVの減少(青色でコード化。以下のT値の色分けを参照のこと。
・(b)媒介分析により、経験ストレスによる慢性疼痛強度の左海馬灰白質容積への有意な媒介が示された(最も有意なボクセルの効果:t = 4.12、MNI座標: -15, -45, 2).
二項ロジスティック回帰により、左海馬と左前島/側頭極の灰白質容積が慢性疼痛の有無に予測効果を持つことが明らかになった。
[結論] 3つの異なる疼痛状態にわたる慢性疼痛は、以前から異なる慢性疼痛状態について一貫して記述されている脳領域において、灰白質容積が少ないという特徴を持っていた。過去1年間に経験したストレスが介在する左海馬の灰白質容積の減少は、慢性疼痛患者における疼痛学習メカニズムの変化に関連している可能性がある。意義灰白質の再編成は、慢性疼痛の診断バイオマーカーとして役立つ可能性がある。大規模コホートにおいて、左島前部および後部、前帯状部、左海馬の灰白質容積が3つの疼痛条件にわたって少ないという所見を再現した。海馬灰白質の減少は、経験したストレスによって媒介された。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
前回、慢性疼痛と脳体積の関係についての論文を抄読したときの考察が好きで、今回の文献にも当てはまるので、ほぼ引用する。
痛いときって、どうなると思う?
天に向かい、両手を突き上げ、開放的なガッツポーズをするだろうか。
いや、むしろ逆だ。
痛いときは、『縮こまる』。
萎縮する。
そして今回の研究の結果を見ると、それは脳においてもそうであるらしい。
腰痛に限らず、慢性疼痛を有する者は、脳が萎縮することが明らかとなった。
何かに侵害を受け続けるというのは、まことに害である。
痛みをはじめとした侵害刺激は、何かを「無くす」「ブレーキをかける」「鎮圧する」作用を有する。
プラスのものをゼロに近づける。
出る杭を打つ。
害を除く、という意味合いにおいて、それは尊い営みなのだろうけれど。
その作用だけが強すぎると、人間はどこまでも萎縮し、小さくなってしまうだろう。
ゼロからプラスに向かう矢印を強めるために、何ができるだろう。
それは、赤信号を青信号に変えることで、慢性疼痛を軽減・消失させ、活動への勇気づけをすることだ。
きっと、僕たち理学療法士には、それができるだろうと思うし、期待されていると思う。
そのためには、・・・。勉強である。
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