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FINER:科学が前進し続ける仕組み

科学は、前進を続けてきた。
たとえば、動力。
科学は、人力車や馬車を蒸気機関に、鉄道に、電車に、飛行機に変え、いま、リニアモーターカーやドローンや自動運転機械に変えつつある。
あらゆる分野において、科学による前進があり、その速度は加速し続けている。
その社会的な加速は、人々がしっかり感じるほど大きなものだ(📗note)。
ここで、考えてみよう。
科学は、なぜ前進をやめないか。
それは、科学が、「前進をやめない仕組み」を内包しているからに他ならない。
その仕組みの代表的な1つが、今回テーマにしたい『FINER』だ。
FINERは、その研究が出発可能なものか、出発したところで目的地に辿り着くのか、出版に値するものか、語り継がれる(被引用)かを選別する、篩(ふるい)だ。
この篩を通過できなければ、研究の果実は何も得られない。
そして、この篩を通過できた時点で、前進がある程度、保証される。
うまく、つくったものだ。
前進の仕組みをつくっておき、その歯車を、尽きぬ人間の本能(社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)をエンジンにして回している。
今回は、このFINERの篩、その1層1層を、研究の進捗とリンクさせながら理解することを目指す。
その際、イメージしやすいように、各段階を『コロンブスのアメリカ大陸発見』を例にして進めてみようと思う(すべてフィクションです🙇)。
最後に、FINERのもつ素晴らしい仕組みを、組織システムに組み込むアイデアを提案する。

▶︎出発の許可が降りない:倫理性 Ethical

女王様は問いかけました。
「コロンブス。では、航海に必要なさまざまな物資をどのように準備するのだ?」
コロンブスはいいました。
「女王様。簡単なことでございますよ。この航海に必要な物資はすべて、この地元の民たちから奪い取って準備すればいいのですから。抵抗する者は、力でねじ伏せます。」
女王様はいいました。
「却下。絶対にこの航海の準備をしてはいけない。」

すべての人を対象とした研究において、倫理的問題は、地域の倫理委員会と協議することが「ヘルシンキ宣言」において義務づけられている(📕World Medical Association, 2013 >>> doi.)。
潜在的なリスクと利益は、自律性の尊重、恩恵、非利益、正義の4原則 に基づいて慎重に比較検討される必要があり(📕Hall, 2011 >>> doi.)、それらが脅かされる場合、倫理委員会の承認は得られず、そもそも、研究が始動できない。
倫理性は、FINER第一の篩と言えるだろう。

▶︎辿り着かない:実現可能性 Feasible

出航して6時間、乗組員たちがいいました。
「コロンブスさん。そろそろ晩飯にしましょうや」
コロンブスはいいました。
「えっ、食料とかないよ。だって、寝たり食べたりしなければ、早くつけるじゃん。3日くらいでどっかに着くでしょ。」
乗組員たちは、全員、近くの陸地で船を降りました。

実現可能性とは、予算だけでなく、デザインの複雑さ、対象のリクルート戦略、 盲検化の方法、サンプルサイズの妥当性、アウトカムの測定、被験者のフォローアップの時間、臨床医のコミットメントなどを指す(📗Cummings, 2013 >>> pdf.)。
行き当たりばったりの研究計画では、目的地(研究目的の完遂)にたどり着くことはない。
実現可能性は、FINRER第二の篩である。

▶︎出版されない理由①:新規性 Novel

アメリカ大陸の発見という大偉業を成し遂げたコロンブスは、こう思いました。
「ほう、西回りというのは革命を生む方向のようだ」
コロンブスは、もう一度スペインから西回りに航海をはじめました。
そして、・・・もう一度アメリカにつきました。
「本、出してくれますよね。テレビでニュースやってくれますよね?」
メディア、マスコミは答えました。
「いいえ。おんなじ話しても、意味ないですから。」

どのような研究プロジェクトも正確な文献解釈から始まるが、多くの場合、それは研究の始まりと終わりを意味する。
すぐに、いくつかの疑問に対する答えは、発表された文献に簡単に見つかることに気づくから。
そして、新たらしい研究は、既存の研究と不必要に重複しない場合にのみ、計画または実行されるべきものとされている(📕Chalmers, 2014 >>> doi.)。
実際、インパクトのある医学雑誌の編集者や査読者は、研究仮説に新規性がない場合や、結果に関連性がない場合は、通常、出版を認めたがらない(📕Davidson, 2012 >>> doi.)。
科学という巨人は、新規性を有さないものを血肉化(出版する)ことはない。
そして、出版されないということは、研究者としてのキャリアが築けないことを意味する。
この新規性の篩は、FINERにおいて最重要の篩であり、これがあるから、前進するしかなくなるわけだ。

▶︎出版されない理由②:切実さ Relevant

西回りに航海を続けるコロンブス。
前方に陸地が現れた。
それは、猫の額ほどの面積の、海面から突出した、誰も住んでいない、ただ陸地というだけの意味をもった点だった。
「やったぜ!新大陸を発見したぜ!!!」
・・・。
乗組員たちは、コロンブスにとても冷たい視線を送った。

「新しければなんでもいいのか」といえば、そんなことはない。
新しく、かつ、意義が大きくなければならない。
この意義を有さない場合には、大きく2つ考えられる。
まず、意義の方向性がまったく間違っているという場合。
たとえば、服を脱げば脱ぐほど歩行速度が速くなる、というテーマ(適当です🙇)。
確かに、新規性はあるだろうが、結論として「全裸がもっとも歩行速度が速く、推奨される」になったら、こんなバカな方向性はないだろう。
2つ目に、意義の方向性は良いが、量的に意義が小さい場合。
たとえば、温熱が足関節の関節可動域に及ぼす影響を調査した研究において、0.7度の改善(p<0.05)を認めた(📕Robertson, 2005 >>> doi.)。
これは新規で、臨床的意義もある方向性だが、改善度の大きさとして、無視できるレベルの改善度だ。
最近では、p値による統計学的有意性に加え、MCID(Minimal Clinically Important Difference)に代表される臨床的意義の視点も重要視されている(📕Armijo-Olivo, 2022 >>> doi.)。
この切実さの篩は、新規性を組み合わさって、「意味のある新しい前進」をつくり出すための仕組みとして働いている。

▶︎語り継がれない:興味深さ Interesting

コロンブスは、アメリカ大陸という存在をあらかじめ知っていて、そこにいく計画を立て、計画通りにアメリカにつきました。
「あの、この話、本にしてくれませんか」
コロンブスが編集者にいった。
編集者は、こういった。
「この話、全然面白くないですね。自費出版しか無理です。」

ものすごく方法論がしっかりしていて、結果の示し方も素晴らしく、考察も結果に根ざした飛躍のないものになっている。
けれど、面白くはない。そんな研究がある。
コロンブスの話だって、想定外にアメリカ大陸が発見されたところに面白さがあり、ロマンがあり、冒険の代名詞となるほどに語り継がれることになった理由がある、だろう。
研究結果が面白いかどうかは主観的な問題で、読者の関心を引くかどうかは、問題の提示の仕方、話題の背景、想定読者、読者の期待など、さまざまな要因に左右される(📕Fandino, 2019 >>> doi.)。
そして、面白くないまま出版された論文は、見向きもされないのだ。
時間による風化に耐えない。
実際、ダウンロードした最新の論文を熟読したと宣言した回答者はわずか3分の1で、少なくともその半分が未読のままだったことが報告されている。さらに、 同じ調査では、調査した論文の3分の1までが出版後5年たっても未引用のままで、わずか20%の論文が80%の引用を占めていた(🌍 参考site >>> site.)。
せっかく巨人の肩の一部になっても、何にも用いられなければ、意味はないだろう。
語り継がれるためには、読者を惹きつけ、読ませ、後世に組み込まれるほどの「面白さ」がいる。
興味深さの篩は、つくった料理をしっかり食べてもらうための、見た目や味付け的な役割を担う。

▶︎FINERの歯車を回すエンジン:人間の本能とリンクさせたシステム

マズローの欲求段階説、というものがある。
それは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものである。
その5段階とは、以下のものである。

1. 生理的欲求 (Physiological needs)
2. 安全の欲求 (Safety needs)
3. 社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
4. 承認(尊重)の欲求 (Esteem)
5. 自己実現の欲求 (Self-actualization)

FINERの篩を通過し、無事論文の出版まで漕ぎ着けたとする。
すると、その後には、アカデミックサクセスが待っているかもしれない。
すなわち、科学研究者としての実績となり、教授職を目指すものにとって前進となる(📕Clements, 2021 >>> doi.)。
このアカデミックサクセスは、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求とリンクしている。
さらに、巨人の肩の建築、ということがある。
フランクリン・ルーズヴェルトの言葉に、その意味が凝縮されている。

われわれは、世界の市民、人類共同体の成員となるべきことを学んだ

1つの研究が論文として出版されるということは、1人の知見が人類共同体の知見になるということ。
そして、偉大な先人の積み重ねた発見や研究などを『巨人』に例えて,現在の学術研究の新たな知見や発見,学問の発展も,それらの積み重ねの上に成り立っている。
この考え方は「巨人の肩の上に立つ(Stand on the shoulders of giants)」という言葉で示される(📕神津, 2018 >>> doi.)
巨人の肩の建築もまた、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求と強くリンクしている。
FINERの篩が指し示すこと。
それは、Stayは、なんの利得も生まないということ。
これが、人を駆り立てる。
成長しないことではなく、成長することに。
前に進まないことには何もおかず、前に進むことだけにインセンティブを置く。
それだけで、物事は面白いように勝手に進む、はずだ。
これまでの科学の歴史が、それを証明してきた。
それは、植物の葉が光の方向を向く位、自然で、生命の仕組みに根ざした、当たり前のことだ。

▶︎FINERを組織システムに生かす

そしてこの仕組みは、学術体系だけの占有物ではなく、組織の標準化にも使えると思った。
たとえば、以下のような組織システムが考えられる。

✅ FINERを生かした組織システム
1. 組織改善の意見を常時募集しておく
2. 投稿された意見をFINERに照らして評価する
3. 合格ならポイント付与すると同時に、施行に向け動く
4. ポイントのカットオフ値を決めておき、人事考課とリンクさせる
5. 施行に向け動きだした事業を、完遂させ、集団を前進させる

これが、前進だけが利得を生むシステムとなる。
科学論文が生む利得に照らせば、(4)がアカデミックサクセスに該当し、(5)が巨人の肩の建築に該当するだろう。

😊Super Human's Voice

科学という巨人が、その血肉とする条件、最強の篩「FINER」。
そして、それがアカデミックサクセス(個人的な成功)、巨人の肩の建築(全人的な成功)にアクセスするための通行手形となっている。
このアルゴリズムはすごい。
今回はコロンブスにずいぶんおバカになっていただいたが、最後に、真剣にコロンブスに学びたい。

想像はむずかしく、模倣は容易い。
The imagination is difficult and the imitation is easy.
零から壱を創るのは、難しい。
一から二を作ることは、易しい。

It’s difficult to create one from a zero.
It’s easy to make two with one.
完璧を怖れる必要はない。
決してそこには到達しないから。

Have no fear of perfection – you’ll never reach it.
航海することが前提であり、生存することが前提ではない。
It’s presupposing to sail and it isn’t presupposing to live.
📕 参考にした論文
Fandino, Wilson. "Formulating a good research question: Pearls and pitfalls." Indian journal of anaesthesia 63.8 (2019): 611. >>> doi.

きっかけとなったnote ⬇︎✨

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