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ADLを向上させたい? では、批判より励ましなさい。

▼ 文献情報 と 抄録和訳

介護者のマネジメントスタイルは、認知症の人の日常生活動作の遂行にどのような影響を与えるか?

Camino, Julieta, et al. "How does carer management style influence the performance of activities of daily living in people with dementia?." International Journal of Geriatric Psychiatry 36.12 (2021): 1891-1898.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識;認知症管理戦略尺度(DMSS)の代表的項目
■ 鎮圧・批判に関する項目
- 私は怒鳴ったり、激怒した行動をとったりした。
- 批判したり、叱ったりして、その人がよりよい行動をするように仕向けた。
■ 照善・励ましに関する項目
- 私は、本人が適切と思われることをしたとき、ほめるようにした。
- 私は、物事の明るい面を見ることができるように努めた。
原典:Gregory A., and Niederehe. The Gerontologist 34.1 (1994): 95-102. >>> doi
✅ Key points
- 本研究は、内発的要因(アパシー、グローバル認知)と外発的要因(介護者スタイル)の両方がADLパフォーマンスに影響を与えることを示した初めての研究。
- 認知症の日常的な問題を管理する際の介護者のスタイルが、認知症者のADLパフォーマンスに影響を与える
- 認知症患者のアパシーレベルと介護者による批判はADLスコアを低下させ、認知機能と介護者による励ましはADLパフォーマンスを向上させた。
- ADL遂行を支援するために、介護者のスタイルとアパシーレベルをターゲットとした多成分介入を開発する必要がある。

[背景・目的] 認知症患者(PwD)の日常生活動作(ADL)のパフォーマンスは、アパシー、認知障害、介護者のうつ病および負担と関連している。しかし、介護者のマネジメントスタイルがADL遂行に影響を与えるか、特に認知障害やアパチーに影響を与えるかは不明である。そこで本研究では、認知症の内的要因(認知、アパシー)と外的要因(介護者のマネジメントスタイル)がADL遂行にどのように寄与しているかを探ることを目的とした。

[方法] PwD(n=143)は、グローバル認知(ACE-III)、アパシー(CBI-R)、ADL(Disability Assessment for Dementia-DAD)について評価された。認知症管理戦略尺度(DMSS)を用いて、介護者(n=143)の批判、励まし、積極的管理の様式を評価した。重回帰分析により、介護者のスタイル、認知、無気力(独立変数)のADL(従属変数)への寄与を検討した。

[結果] DAD得点の分散を説明する最良のモデルは、認知(β=0.413、t(142)=4.463、p=0.001)、アパシー(β=-0.365、t(142)=-5.556、p=0.001)。 001)、介護者批判(β = -0.326, t(142) = -2.479, p = 0.014)、介護者励ましスタイル(β = 0.402, t(142) = 2.941, p = 0.004) がDAD得点の分散の4割を占めた。

[結論] この新しい研究により、PwDの無気力度と介護者の批判はADL能力にマイナスの影響を与え、PwDの認知能力と介護者の励まし方はADL能力を向上させることが示された。これらの知見は、認知症における機能維持と疾患進行遅延のための新しい多成分非薬理学的介入の開発に重要な意味を持つと同時に、現在の介護者や家族にも直接関連するものである。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

大前提として、「改善の因果は個人内で閉じている」ことを共有したい。
どういうことか?

✅ 「改善の因果は個人内で閉じている」, 例:セラピストA & 患者B
- 患者Bがスクワットを20回して、セラピストAが励ました。
- 患者Bの筋力が向上した。
- 患者Bの筋力が向上したのは、セラピストAが励ましたからではない。
- 筋力が向上したのは、患者Bによるスクワット実践が筋負荷を加えたから。
- 極論、患者Bがスクワットしている最中にセラピストAが鼻ほじってても改善は変わらない。

では、他者による批判や励ましは、「何」に影響を与えうるか?
それは、「実践に向かう意志・勇気」に。

上記の例でいえば、励ましは「患者Bがスクワットに向かう意志・勇気」を増大させる。セラピストが鼻をほじっているより、励まされた方が「よし、頑張ろう!」となるわけだ。
じゃあ、批判は?、批判が繰り返されると人はどうなる?

これはパトカーを思い出すと、感覚を共有しやすい。
パトカーを見たとき、どう思うか?
「あっ、パトカーだ、やばい!」
別に悪いことは、何もしていないのに、だ。
批判や叱責が繰り返されると、人間は逃避・回避したくなる

また、ある行動をして親や上司からメッチャ怒られたとき、どう思うか?
「ある行動はもうしたくない」だ。
批判や叱責には、行動を減衰させる作用もある。

まとめますと。
批判や叱責は、「回避」や「減衰・削減」にしかつながらない
すなわち、何かを減らしたり、削ったり、なくしたりする作用しかない。
だから、介護者による批判や叱責は、患者本人の実践に向かう勇気を削ったり、なくしたりする。
批判や叱責は、無気力と無二の親友である。
そして、このコンビは今回の研究でも示されたように、改善にとって天敵だ。
削られきった気力(無気力)は、実践量の圧倒的な低下につながるから。

必要なのは勇気づけである。
ベッドレストからは、何も生まれない。
萎えるだけだ。

転ぶこと覚悟で自転車に乗った回数だけが、乗車能力を保証する。
実行だけが、現実を変えるエクスカリバーだ。
その剣はintra(個人間)ではなく、inter(個人内)でだけ、効力を発揮する。
だからこそ、相手を剣で刺すのではなく、相手に剣を持たせろ、振らせろ!
そのために向けた方略を練れ。
その視点からは、批判や叱責の景色は見えにくいと思うのだが、どうだろうか。

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