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バランスの強度指標。RPS(Rate of perceived stability)

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後の人におけるバランス運動強度の指標としての知覚的安定性速度

📕Shenoy, Aishwarya, et al. "Rate of perceived stability as a measure of balance exercise intensity in people post-stroke." Disability and Rehabilitation (2022): 1-7. https://doi.org/10.1080/09638288.2021.2022777
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✅ 前提知識:Rate of Perceived Stability (RPS)とは?
・脳卒中後のリハビリテーションにおいて、バランス運動強度の個別処方と進行を可能にする指標を確立することが重要である。
・バランス能力のリハビリテーションにおけるこの運動処方のギャップに対処するため、Espyらは、バランス機能に特化した活動の挑戦度を自己評価するためのRate of Perceived Stability scale(RPS)を開発した。
・この尺度は知覚疲労度(rate of perceived exertion [RPE])の形式を踏襲し、臨床的に意味のある安定性の記述を数値で表すために1~10の評価を使用する(図参照) .
・RPSスケールは、バランスに挑戦する運動中の心拍反応に依存しないことが示されており、課題中の労力よりもバランスに関連する知覚的な運動強度を測定していることを示唆している。

📕 Espy et al. J Nov Physiother 7.4 (2017): 343. >>> doi.

[背景・目的] 本研究では、脳卒中患者を対象に、RPS(Rate of Perceived Stability)尺度の再現性と同時評価妥当性を検討する。

[方法] 2日間(2-10日間隔)に、参加者は臨床検査中にRPSの評価を実施した。1)地域バランス・モビリティ尺度(community balance and mobility scale, CB&M)の16課題、2)6分間歩行テスト(6-minute walk test, 6MWT)、3)自力歩行速度の3つの臨床指標を実施した。RPS評価値の日間テストリテスト信頼性をクラス内相関(Intraclass correlations, ICC)で評価した。標準誤差(standard error of measurement, SEM)および最小検出可能変化量(smallest detectable change, SDC)は、日間一致の程度を示した。スピアマン順位相関(rank correlations, rs)は、RPSと一般的な課題知覚評価、課題達成度スコアとの関係を定量化したものである。

[結果] 脳卒中患者30名(女性50%)が参加した。

■ RPSの信頼性
・タスク間のICCは0.46~0.93であり、12/19タスクで0.75以上のICCが得られた(良好なテスト-レテスト信頼性)。
・SEMは各タスクで1点、SDCは各タスクで2〜4点であった。

■RPSの妥当性
RPSと課題認知の同時評価妥当性は、良好~良好(rs:0.78~0.94、p<0.01)であった。
RPSが高い(安定感がない)ほど、CB&M課題におけるバランス能力スコアが低く、10/16課題でfairからgood-to-excellentの範囲で負の関係が見られた(rs range -0.46 to -0.81, p ≤ 0.01 )。

[結論] RPSは、脳卒中患者におけるバランス強度の信頼性・妥当性の高い尺度である。RPS尺度は、脳卒中後の歩行バランスのリハビリテーション中にバランス強度を測定するという実践上のギャップを解決するための有用な臨床ツールとなる可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

課題難易度は重要だ。
難易度が簡単すぎても、難しすぎても、運動学習には効果的とは言えない。
その中で、「じゃあ、どうやって患者特異的に難易度フィッティングさせるの?」という話がある。

その解答の1つとして、先頃、第32回群馬神経系理学療法研究会で発表した「Keyform」がある(Twitter中にKeyform(BBS)& 文献情報あり)。

このKeyformは、簡単にいえば、「その母集団特異的(例えば高齢脳卒中者)に、当該評価指標(例えばBBS)の項目を難易度順に並び替えたもの」である。
これを用いれば、「いま、BBSの中ではこの部分があなたのチャレンジ領域ですね、次はここを目指しましょう」ということが可能になる。
だが、このKeyform、「母集団特異的」であって、「個人特異的」ではない。
同じ高齢脳卒中者の中にあって、個人差はもちろん存在する。

そこに柔軟に対応できそうなのが、今回抄読した「RPS」だ。
RPSは、以下のものと同じ構造を持っている。
・運動強度におけるBorg Scale
・疼痛強度におけるNRS

Borg ScaleやNRSが、臨床上とても有用であることを鑑みると、この尺度は有望なのだろう思う。

さて、これらをどのように用いているかを思い出そう。
目の前の運動や疼痛に対して、1対1の関係で用いている。
つまり、対象尺度/課題に縛られず、何にでも適応可能という強みがある。
それゆえ、これらの指標は課題&個人特異的に用いることができる尺度だ。
RPSはバランスにおいて、そのような測定を可能にする。
Keyformが地図とすれば、RPSは目の前の信号、というところだろうか。

繰り返しになるが、RPSはMini-BesTEST中のある項目をやっている時にも使えるし、名もなきバランス介入にも使える。
いま、目の前のバランス課題が、その患者にとって赤/黄色/青信号か、を示唆してくれる。
Keyformという地図と、RPSという信号があれば、事故なく目的地までいけそうだ。

"if you cannot measure it, it does not exist."
測定できないものは存在しないのだ

ブレネー・ブラウン

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