見出し画像

転倒, 傷害, 転倒恐怖が個人の感じる社会参加に与える影響


📖 文献情報 と 抄録和訳

長期にわたる身体障害を抱えながら高齢期を過ごす人々における、転倒、転倒によるけが、転倒に対する不安が社会参加に及ぼす影響:横断的研究

📕Dashner, Jessica, et al. "Influence of falls, fall-related injuries, and fear of falling on social participation in people aging with long-term physical disability: a cross-sectional study." Disability and rehabilitation (2023): 1-9. https://doi.org/10.1080/09638288.2023.2293990
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 本研究では、長期にわたる身体障害を抱えながら加齢する人々(PAwLTPD)における転倒、負傷、転倒に対する恐怖、社会参加の関係性と有病率を調査した。

[方法] 縦断的コホート研究のベースラインとして、地域機関およびソーシャルメディアから募集した474人のPAwLTPDの便宜的なサンプル。 対象基準:45~65歳、5年以上の身体障害を自己申告、英語を話す。身体的/精神的健康、過去1年間の転倒、転倒に対する恐怖、および社会的役割と活動への参加能力と満足度を測定する患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)に関する自己報告アンケートが収集された。

✅ この研究における「参加能力」と「参加の満足度」の定義
● 参加能力(Ability to Participate in Social Roles and Activities)

・定義:個人が日常的に求められる社会的役割や活動(例えば仕事や家族との関わり)を遂行する能力をどの程度感じているかを測定するもの。
・評価方法:Patient-Reported Outcomes Measurement Information System (PROMIS)の指標を用いて、社会的役割への制限を反転スコアで評価。高いスコアは制限が少なく、参加能力が高いことを示す​。
● 参加の満足度(Satisfaction with Participation in Social Roles and Activities)
・定義:個人が自分の社会参加(例:仕事、家族関係、地域活動)に対してどれだけ満足しているかを測定する。
・評価方法:PROMISの指標に基づき、過去7日間における参加への満足度を自己報告で評価。高いスコアはより高い満足度を意味する​。

[結果] 平均年齢は56.8歳、参加者の大半は女性(66.7%)で、白人(61.4%)であった。65%近くが転倒を報告し、56.6%の転倒が負傷につながった。転倒および転倒による負傷は、より悪い心身の健康状態および5つ以上の健康状態の存在と関連していた。参加者の75%が転倒への恐怖を報告した。

転倒したことのある人や転倒を心配している人では、参加能力や満足度が低いことが分かった。

■ 転倒が個人が感じる社会参加に与える影響
<参加能力>
・転倒した人(42.6) vs 転倒しなかった人(47.0)
・転倒した人の方が、社会的な活動や役割への参加能力が有意に低い(p < 0.001)。
<参加の満足度>
・転倒した人(42.5) vs 転倒しなかった人(45.3)
・こちらも転倒した人の方が満足度が低い(p = 0.003)。
解釈:転倒があった人は社会的な役割や活動への参加が制限されやすく、その満足度も低い傾向がある。

■ 傷害が個人が感じる社会参加に与える影響
<参加能力>
・ケガをした人(42.0) vs ケガをしなかった人(43.47)
・この差は統計的に有意ではない(p = 0.117)。
<参加の満足度>
・ケガをした人(40.8) vs ケガをしなかった人(44.81)
・ケガをした人の方が満足度が低く、有意な差がある(p < 0.001)。
解釈:ケガの有無は参加能力には大きな影響を与えていないが、参加の満足度には影響を与えている。

■ 転倒に対する恐怖が個人が感じる社会参加に与える影響
<参加能力>
・恐怖を感じている人(42.79) vs 感じていない人(47.9)
・恐怖がある人の方が参加能力が低い(p < 0.001)。
<参加の満足度>
・恐怖を感じている人(42.36) vs 感じていない人(46.7)
・満足度も恐怖を感じている人で有意に低い(p < 0.001)。
解釈:転倒への恐怖は、社会参加の能力と満足度の両方に悪影響を及ぼしている。

[結論] PAwLTPDは転倒、転倒によるけが、転倒に対する恐怖のリスクが高く、それにより社会活動への参加能力が影響を受ける。転倒に関連する状況を理解し、PAwLTPDの転倒に対処するための効果的な介入策を開発するためには、さらなる研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

客観的な指標は大切だ、なぜならそれが現実に起こったことだから。
だが、その水面下においては、実に複雑な人間の主観的な動きがあることもまた、現実なのだ。
その主観的な世界に目を向けておかなければ、医療は時に暴力になってしまうかもしれない。

今回の抄読研究は、転倒や傷害、転倒恐怖の有無が、個人の感じる社会参加能力、社会参加の満足度に与える影響を調査した。
その結果として、転倒や転倒恐怖は個人の感じる社会参加能力を低下させ、転倒、傷害、転倒恐怖のすべてが社会参加の満足度を低下させた。
転倒者や、転倒恐怖を感じている人には、より慎重に社会参加を促す必要があったり、結果の受容についてサポートすることが必要かもしれない。
何にせよ、このような研究を通じて、病者の心理に少しでも寄り添う、近づくようにしていきたい。

「真の医者になろうとする者は、治そうと思うあらゆる病気や、診断しようとするあらゆる症状と、それに付随する症状を前もって経験しておかねばならぬ」・・・本当にそういう医者なら私も信用しよう。
実際、他の医者どもは、海や岩礁や港を描いて、自分は机の前に座って、何の危険もなく模型を動かす人のように我々に指図する。
彼を実際の中に投げ込んでごらん
どうしていいか分からなくなるから

モンテーニュ『エセー』第3巻十三章

⬇︎ 関連 note & 𝕏での投稿✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪

↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集