見出し画像

床材とバランス

📖 文献情報 と 抄録和訳

5種類の床材が健常人の起立バランスに及ぼす影響

📕Bonardet, Nathalie, et al. "Impact of five floor coverings on the orthostatic balance of healthy subjects." Experimental Brain Research (2023): 1-10. https://doi.org/10.1007/s00221-023-06698-3
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 足底の皮膚感度は姿勢制御の調節に寄与するため、足底支持面の特性を変えることでこの制御を変更することができる。本研究は、健康な被験者48名 (40 ± 15 歳)を対象に、5種類の床材が起立バランスに及ぼす影響を評価することを目的とした。静的姿勢計は、対照条件(被覆なし)のプラットフォーム上と、5種類の異なる床材上で目を開いたり閉じたりして実施した。

✅ 5種類の床材
・Foam
:厚さ2mmのフォームマット
・Silicon:厚さ2mmのシリコンマット
・EVA mat:厚さ2mmの酢酸ビニルエチルマット
・Small pimples:厚さ2mmのシリコン + 2mm高のボツボツ
・Large pimples:厚さ2mmのシリコン + 7mm高のボツボツ

圧力中心(CoP)変位の平均速度を主要評価項目とし、その他10項目の姿勢変数を評価した。

✅バランス評価指標の用語
・CoP変位の平均速度(Vav、mm/s)は、検査中にバランスを維持するために必要な姿勢制御システムの効率を反映する。
・長さ(L, mm)は、検査中に連続して記録されたCoP位置を隔てるすべての距離の合計であり、X(ML)軸(LX)とY(AP)軸(LY)に沿って具体的に表される。
・X軸およびY軸上の振幅(AXおよびAY、単位:mm)。これは、検査中にX軸(ML軸)およびY軸(AP軸)上にそれぞれ記録された、最も離れた2つのCoP位置間の最大距離である。
・X軸(ML軸)とY軸(AP軸)に記録されたCoP位置の平均変位(XavとYav、単位mm)は、検査中にこれらの軸に沿って姿勢の非対称性を測定する。
・検査中に記録されたCoP位置の90%を含む信頼楕円の表面(S、mm2)。
・LFS(Length as a function of the Surface)とは、標準的なSxL回帰曲線に従い、記録中に測定されたS値の関数として、測定されたL値と期待されるL値との比を示す。LFSは姿勢戦術と安定性のエネルギーコストを評価する(値が1より小さいとエネルギー節約型の姿勢制御を表し、1より大きいとエネルギー消費が大きいことを表す)。
・Y(AP)軸上の平均CoP位置の関数としてのCoP変位速度の分散(VFY)は、姿勢制御に必要なふくらはぎの筋肉の緊張を評価する。VFYの値がプラスであれば筋緊張が低下していることを示し、マイナスであれば筋緊張が亢進していることを示す。

[結果]
■ 5種類の床材×立位バランス
・目を開けた状態では、Foam、Silicone、特にLarge pimplesを使用した場合、主要評価項目であるVavとLが増加した。
・これらの測定値は、目を閉じた対照条件(被覆なし)と比べて、もはや有意な変動を示さなかった。
・LXおよび/またはLYもまた、Silicone、特にLarge pimplesを使用した場合、目を開けた状態でのみ増加した。
・AXの増加は、目を開けた状態では、Foam、EVA、特にLarge pimplesで観察され、目を閉じた状態ではFaomでのみ観察された。
・また、Sは、目を開けた状態でも閉じた状態でもフォームマットで増加し、目を閉じた状態ではLarge pimplesでのみ増加した。
・最後に、VFYの値は、目を開けた状態でも目を閉じた状態でも、Large pimplesを使用した場合の方がマイナス幅が小さかった。

[結論] この研究から、滑らかな床材や手触りの良い床材を加えることで、目を開けた状態でのバランスが変化することが示された。目を閉じた状態では、バランスにとってより障害的ではあるが、健康な被験者はより良い姿勢適応を達成した。このポスログラフィ検査法は、臨床現場において「固有受容予備能」を評価するために使用できる可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この研究は、「床材」であることに注意が必要だ。
バランスと床面の状況というと、「エアレックス」「エアスタビライゼーション」のような不安定性を誘発するような厚みのある床面をイメージしがちだが、今回の研究においては2mmと3mmの厚み。
カーペットよりももっと薄い。
つまり、厚みによる不安定性誘発という機能はほぼなくて、床質の違いによる影響、と考えた方がよさそうだ。

さらに、健常者が対照であるため、その点にも注意が必要だ。
高齢者や、筋骨格系疾患、脳神経系疾患…、また全然違ったバランス反応を示すだろうと思う。

だが、それらの点を差し置いても、面白い。
床材の違いによって、バランスの違いが引き起こされるということ事実が明らかになった。
今回の研究では、静的な立位バランスのみが対象だったが、歩行など動作場面の違いが気になるところだ。
床は、常に接する外部、力の入出力をする外部。
その質の違いと特徴には、今後も目を光らせていきたい。

⬇︎ 関連 note✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集