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【オサムとアトムと】 天馬博士はマッカーサー

*「アトム大使」のラストについての言及があります。

 天馬博士は、マッカーサーです!!
  
 ・・・・だと思います。(;゜ロ゜)

とにかく私の考えをご説明させて頂きます。



てずかはるむし 

 最初にアトムが登場したのは、「アトム大使」という作品です。1951年の雑誌「少年」の4月号から連載が開始されました。

3月号に載った予告には作者名が「てずかはるむし」とあります。出版社が「てづかおさむ」を知らなかった訳です。(連載開始時に手塚治虫「てづかおさむ」と修正されます。)

今では考えられないことですよね。
 
すでに、「新宝島」「ロストワールド」「メトロポリス」等々の傑作を描いていたのですが、関西を中心とした「赤本」だったので、東京・中央の出版社ではまだあまり知られていなかったのかもしれません。

手塚先生にとってはショックだったと思います。(>_<)

「主人公」のケンちゃんとタマちゃん                                  

主人公とされていたのはアトムではなく、人間の少年ケンちゃんとタマちゃんです。アトムは、脇役という立場でした。

地球そっくりの「もう一つの地球」が二千年前に終わりを迎え、そこから脱出した人々がロケットで宇宙を旅し続けて、私たちの地球を見つけます。                         
そして「もう一つの地球」の人々である「宇宙人」と、地球人との間で軋轢が生まれ、その調停役としてアトムが活躍する、という物語です。

天馬博士

 天馬博士は一人息子のトビオ君を交通事故で亡くし、代わりにロボットのアトムを造ります。しかし、サーカスに売り飛ばしてしまいました。

最初、地球人と宇宙人は平和に共存していました。しかし天馬博士が、細胞を小さくして人間をゴミのようにしてしまう収縮薬Xを作り、自分で組織した赤シャツ隊に命じて、次々と宇宙人を抹殺していきます。

その結果、宇宙人が反撃として地球人に対し総攻撃を行おうとする事態にまで発展しました。宇宙人と地球人の本格的な戦争を阻止するために、アトムが平和の使節として遣わされます。

アトムの敵は宇宙人ではありません。地球人と宇宙人との紛争を産み出した天馬博士こそがアトムの敵なのです。



アトムは何とかして天馬博士を止めようとします・・・

結局、天馬博士は手下の赤シャツ隊達に収縮薬Xを浴びせられてゴミとなってしまいます。



ちなみに、「鉄腕アトム」の連載では、天馬博士は死なずに行方不明になっていたと変更されています。
そして、アトムを影から見守り、時々助ける存在となります。



さて、「アトム大使」での天馬博士について続けて見てみましょう。

「図説 鉄腕アトム」より

二人とも天馬博士です。左側が最初に描かれた天馬博士で、未使用となりました。雑誌に採用されたのは右側です。最初の天馬博士は黒めがねの禿げ頭の姿に描かれおり、悪役というイメージが強すぎるので変更されたのかもしれません。それとも・・・?

実はそもそも「天馬博士」は、構想だけで終わった「狂乱の地球」に登場する予定で、その段階では手塚先生の前からのキャラクター「レッド公」で描こうとしていたのですが、変更されたのです。

こちらがレッド公です。


天馬博士は2回の変更を経ているわけです。
手塚先生には、それなりの考えがあって「黒めがねの天馬博士」にしたけれども、編集部から変更を求められて、現在の天馬博士にしたのでしょう。

成長しなくてはいけない!

ところで、天馬博士がアトムをサーカスに売り飛ばしたのは、アトムが「成長しなかった」からですが、ロボットが成長しないのは当たり前で、天馬博士は無茶苦茶です。


また物語の終わりで、アトムは宇宙人と戦争回避のための交渉をする際、誠意の証として自分の頭を渡します。それに感激した宇宙人がアトムの交渉案を受け入れるのです。

ところが、宇宙人達が旅立っていく際、アトムに頭を返してくれるのですが、一緒にアトムの「大人の顔」もプレゼントしてくれるのです。

そして「アトムくん 君の顔を参考にして大人の顔を作りました。君もいつまでも少年ではいけない。今度会うときは大人同士で会おう。さようなら」という手紙がついています。
タマちゃんも「僕も今度は大人になってるよ!さよなら・・・」と宇宙人を見送ります。(ちなみにこのシーンは、「鉄腕アトム」の単行本では変更されています。)

雑誌掲載時のラスト

 ロボットに対し「成長しない!」と怒る天馬博士もおかしいですが、同じようにロボットに「いつまでも少年ではいけない」という宇宙人も相当おかしいのではないでしょうか。(゜д゜)

「アトム大使」では、「成長しなくてはいけない」「少年のままではいけない」というメッセージがとても強いように思います。何故でしょうか。

天馬博士とマッカーサー


アトム大使の連載開始は1951年4月号ですが、アトムが登場したのは、連載4回目の7月号でした。(元々、主役ではありませんから)

アトム登場の直前の5月5日、マッカーサーがアメリカの議会で「日本人は12才の少年のようなもの」と発言しています。

この発言は、当時の多くの日本人にとってかなりのショックだったようです。自分たちを子供扱いしているのかと。

「アトム大使」の最初の構想では、天馬博士は改心することになっていました。しかし連載では改心することなく、手下の反逆でゴミにされてしまいます。

マッカーサーの発言を受けて、天馬博士とアトムの構想を変更したのではないでしょうか。

マッカーサーの発言を受けて、アトムが「成長しないため」にサーカスに売り飛ばしたという設定に変更し、天馬博士も改心させずに悪役ぶりも徹底させたのではないでしょうか。


天馬博士とマッカーサーを比べてみましょう。

最初の天馬博士の黒めがねをサングラスに、

                                               
                                                

本編の天馬博士のパイプをコーンパイプに変えれば


「マッカーサーの日本」より

はい、マッカーサー!! 

・・・(;゜ロ゜)ダメですか?

マッカーサーに対する思い


手塚先生は、「ぼくはマンガ家」でマッカーサーについて「尊大な男」と語っています。また、「いつの間にか、大和民族は12歳半程度だというレッテルが貼られた」とも書いています。

手塚先生は、進駐軍を「占領軍」と呼びます。(正確な表現だと言えます)

ある日、占領軍の4,5人の酔っ払った兵隊にからまれて言葉が通じないために殴られます。

手塚先生は書きます。「笑い飛ばして米兵は行ってしまった。手も足も出ない。占領軍に反抗すれば、射殺されても文句が言えない時代なのである。腹立たしいやら口惜しいやら、意志の疎通の欠如を、ぼくはひどく呪った。当分の間、この厭な思い出はぼくから頑強に離れず、しぜん、ぼくの漫画のテーマに、そのパロディがやたらと現われた。地球人と宇宙人の軋轢、異民族間のトラブル、人間と動物との誤解、そしてロボットと人間との悲劇・・・アトムのテーマがこれなのである。」(「ぼくはマンガ家))
 
天馬博士と赤シャツ隊は、マッカーサーと占領軍GHQなのではないでしょうか。



 
アメリカへの思い「どついたれ」

手塚先生には、戦後の日本を舞台にした「どついたれ」という作品があります。(1979年から80年に描かれました。)


「どついたれ」は自伝に近いフィクションで、何名かの主要な登場人物に実在のモデルが存在します。

手塚先生も、「高塚」という名前で登場しています。山下哲という登場人物も活躍しますが、彼はフィクションの存在です。
そして哲は、マッカーサーを暗殺しようとします。

手塚先生は、自分の名前の「てつ」、そして「鉄腕アトム」の「鉄」を取って「哲」に与え、自分の分身として描いたのではないでしょうか。

哲の行動は、手塚先生の思いの反映だと思います。

父親への思い

手塚先生は、1951年3月24日に、大阪大学医学専門部を卒業しました。医学専門部長から医者には向かないと言われていましたが、インターンとなりました。同じ年の4月号から「アトム大使」の連載が始まっています。

手塚先生の高曾祖父と曾祖父は医者でした。また父親は厳しい人だったようです。

マンガ家の道を進んでいくか、医者になるか。

また有名な話ですが、手塚先生は自分の年齢を2才年上に自称していました。若く見られてなめられないようにした為、とも言われています。

手塚先生は、父親から医者になること望まれていると感じながらもマンガ家の道を進んでいきたいと願い、早く一人前の大人にならなければならない、世の中で認められたいと考えていました。

当時の世間の「マンガ家」という職業に対する評価も、現在より遙かに低かったでしょう。
その評価を高いモノへと変えていった行った第一人者は、間違いなく手塚先生なのですが。


出版社には「てずかはるむし」とされ、マッカーサーからは「日本人は12歳の少年である」と言われた事に対し、「一人前の大人になって自分を認めさせてみせる」という思いが、「アトム大使」を描いていた時の手塚先生の心にあったのではないでしょうか。。


*2023.12.25 「哲」の名前について補足しました。
    同       レッド公について追加しました。

*2024.1.9 天馬博士と赤シャツ隊の画像を追加しました。

*2024.1.12 天馬博士の最期について補足しました。

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