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ろくでなしな旦那の話:「構図」
#熟成下書き
去年の九月に書いていたが、投稿をためらっていた記事。noteの企画に乗って、まあいいかと投稿することにした。
この手の話は他にも山ほどあるが、他方面に障りがあって流石に出せないものもある。これはマシな方。
できれば笑ってもらえるとありがたいが、ドン引きされる可能性も。新年から出す話じゃないが、ご勘弁願いたい。
では、以下本編をどうぞ。
嘘のような本当の話。それは、かれこれ十五年ほど前のこと。
当時、我が家は商売をしていて、それがどうにも立ち行かなくなっていた。借金は膨れ上がり、一億という見たこともない額にまで。二進も三進も行かなくなって、これはもう破産するしかないと、弁護士に相談し始めた頃。
家に一本の電話がかかってきた。街金だ。その頃、私は旦那に「街金にだけは手を出さないで」と何度も言っていた。にもかかわらず、勝手に借りて案の定返せなくなり、旦那は逃げ回って時には家にも帰って来ないような有様だった。
「ああ、奥さん。ご主人に言うても、埒が明かんのや。お金、返してもらえませんか。もうとっくに期限は切れてるさかい、早うして欲しいんや」
「あの、えと、弁護士入れて相談してるていうのは、知ってますよね?」
「ああ、聞いとるけどな。それではうちも困るんや、ちゃんと払うてもらわんと」
「でも……」
話している間に、段々と相手の声が凄みを帯びてくる。押し問答に、こちらも少しずつ声が大きくなっていたが。
「あかんで、奥さん。約束は約束や。何なら今からそっちへ行って、嫌がらせしてもええんやで。近所の人が何て言うかーー」
何だって? それはまずい。否、この際ご近所などはどうでもいい。うちにはもっと問題が……。
当時、我が家では犬を飼っていた。ゴールデンレトリバー、大型犬だ。ところがこの犬がたいそう臆病で、誰かが来るとやたら吠える。自分より怖そうだと思った日には、私の背後に周り体の脇から顔だけ出して、バウッバウッバウッという始末。更に恐怖がピークに達すると、いきなり飛び出して噛みつくのだ。
万が一、相手に怪我でもさせたら、話がもっとややこしくなる。相手は街金、誰と繋がっているか知れたものでは……。
高速で考えを巡らせている内、むしろ段々腹が立ってきた。大体そもそも、旦那が悪い。あれほど言ったのに勝手に借金して勝手に払えなくなり、自分は逃げ隠れして面倒はこちらへ押し付ける。何で私がこんな思いをしなきゃならんのだ。ああ、イライラする。どいつもこいつも好き勝手ばかり……プツッ。
気がつくと怒鳴っていた。
「うるさいわっ。払えへんから待ってくれて言うてるんやろ。払える金があるなら、とうの昔に払うとる。何が嬉しゅうて、そんな脅しを聞かなならん。こっちは逃げも隠れもせえへんわ。用事があるならこっちからかけるよって、もう二度と電話して来んなっ」
叩きつけるようにして電話を切った。はぁはぁはぁ。興奮しながら犬を抱き寄せ、その毛皮に顔を埋める。落ち着いてくるにつれ、不安な気持ちがじわじわとやって来た。本当に来たらどうしよう。否、その時はこの子(犬)だけでも守らなければ。
悶々としたまま、十数分。また、電話がかかって来た。旦那だ。
「もしもし?」
「ああ、わしや。今、街金から電話があってな、ーー」
どうもあの後、取り立て屋は旦那に電話をしたらしい。そして旦那にこう言った。
「奥さん怖いから、わし、もう電話したくないねん。せやけどせんかったら上から怒られるし。ご主人、何とかしてもらえませんか」
はあ? どういうこと?
「泣いとったんちゃうか。せやから言うといたで、『まあまあ。すんまへんな。わしからちゃんと言うときますよって、堪忍したってください』て。まあ、そういうこっちゃ」
……ちょっと待て。
そもそも、勝手に借金して返せなくなった旦那が事の元凶、その上を行く悪役が街金の取り立て屋、巻き込まれた私が可哀想な被害者、のはず。
なのに何故、悪役のはずの取り立て屋が泣き、事の元凶の旦那がその宥め役に回り、被害者であるはずの私が恐ろしい鬼婆のようになってるんだ。
おかしいだろ、この構図。絶対間違ってる。どうしてこんなことに?
その後、街金から二度と電話はかかってこなかった。勿論、家にも来なかった。
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