食本Vol.10『フードテック革命』外村仁
☆食産業の「今」と「すぐそこにある未来」を俯瞰で捉える事ができる本
2020年7月20日初版発行の本です。
世界中がコロナ禍に見舞われ、困惑、不安、閉塞感が人々の生活や身心をむしばみ始めていた頃です。
本書のタイトルである「フードテック」におけるムーブメントはその前から主としてアメリカから始まっていました。
本書の著者、監修者の皆さんは2016年のアメリカ シアトルで開催されたSKS(スマート・キッチン・サミット)が自分たちにとってあまりにも衝撃的な出来事であったと書かれています。
知っているようでちゃんと説明できない現代用語のひとつ。
☆もはや日本は出遅れてしまったのか⁉
2016年シアトルで開催されたSKSに参加された本書の著者、監修者の皆さんが受けた衝撃。
それは自分たちが聞いたことのないフレーズの数々、フードテックの概念が単なる食とテクノロジーの掛け算ということではなく、”その先にある食品自体のあり方”や生活者の行動を含めた食の定義を根底から変えるムーブメントが起きている、と感じ、「激しい稲妻が走った」そうです。
そして最も衝撃的だったこと。
それはSKSの議論の中で、登壇者としても事例としても、日本企業が一切出てこなかったこと。
さらに、SKSに日本からの参加者すら見当たらなかった。。。
ということであったといいます。
食文化、調理家電、テクノロジー…日本は世界最先端ではなかったのか...
2016年のSKSに参加された本書の著者、監修者の皆さんのその時の衝撃たるや。
なんでもかんでも「日本が世界一だ!」とは思わないまでも、日本人である以上、日本の食文化やテクノロジーについて、一庶民である私だって”誇り”に感じています。
(と言いますか、やっぱりいつも「いいところがいっぱいあるんだから、日本もっと頑張れ」と思ってます。)
しかし。
現実的には、フードテックという見地から世界を見るだけでも、日本は立ち遅れている。いや技術的な立ち遅れ、と言うよりは問題意識、考え方が既に遅れている、と本書は書いています。
付録のFood Innovation Map Ver.2.0。「食」というものが単一的なものでなく多元的なものであり、全てのモノ・コトに関わっていることが一目でわかります。自分を取り巻く「食」を俯瞰で見ることができます。
☆目 次
Chapter1 今、なぜ「フードテック」なのか
Chapter2 世界で巻き起こるフードイノベーションの全体像
Chapter3 With&アフターコロナ時代のフードテック
Chapter4 「代替プロテイン」の衝撃
Chapter5 「食領域のGAFA」が生み出す新たな食体験
Chapter6 超パーソナライゼーションが創る食の未来
Chapter7 フードテックによる外食産業のアップデート
Chapter8 フードテックを活用した食品リテールの進化
Chapter9 食のイノベーション社会実装への道
Chapter10 新産業『日本版フードテック市場』の創出に向けて
おわりに 改めて思う「日本はすぐ動かねばならぬ」
☆フードテックが変える今~これから
2016年に衝撃を受けた著者、監修者の皆さんがその4年後に2020年に出された本書。
あとがきのタイトルが「日本はすぐ動かねばならぬ」とあります。
現在2021年。本書が書かれるきっかけになったアメリカでのフードテック展から5年。この5年で日本のフードテックはどのように動き始めているのでしょうか。
コロナ、という誰もが予期しなかった災害は決して今後の顛末について軽はずみな事は言えませんが、それでもコロナ禍だからこそ見えてきたことも多々ある、ということをFFI(The Future Food Insteitute)創業者であるサラ・ロバーン氏が本書に向けて直接メッセージとして送られています。
全文を紹介することはできませんが、私が特に感動した文章を抜粋して紹介させていただきます。
”食は命であり、エネルギーであり、栄養源です。食は価値観や文化を反映し、象徴やアイデンティティーを伝える媒体ともなります。
食は社交性と人間関係もつくり出します。食べることは人々にとって必要不可欠な活動であり、いわば社会そのものの原動力とも言えるのです。
だからこそ、世界的に新型コロナウィルスが流行する中で、まさに世界中で等しく食生活と食習慣が劇的に変わりつつある今、文化・サステナビリティー・アクセス性の観点から食をしっかりと分析し、見つめていくことがますます重要になっています。
(略)
このウィルスには「見えないものを見えるようにする」力があったのだと思います。
(略)
日本は、世界で最も技術的に進んだ国の一つであり、時代の大きな変化に立ち向かうために必要なすべての価値観やスキル、そして美徳も備えている国です。
(略)
私たちの未来を養っていくために、私たちは食の生産と消費の在り方を変革し、食についてしっかりと考えることが必要です。
付録のFuture Food Vision 1.0。この中で一つでも”自分ごと”として行動に移すことが大切なのでは...
☆今回の”旅”から教わった「食」「食べること」とは?
本書は現代を生きる私たちに食の再定義を提起しています。
フードテックと言うと「最先端技術」をイメージしてしまいますが、本書を読むとそればかりではないことがわかります。
食の再定義、変革と最先端技術の構築と発展を進めていくにあたっては今まで人間が積み重ねてきた文化や歴史、伝統、習慣、と言ったことが必要不可欠です。本書を読みながら、食産業の最先端に触れながらも「温故知新」という言葉を思い出していました。
今回の”旅”で教わった「食」「食べること」とは、人間の在り方そのものである、ということでした。
それゆえに、まさに今、一人一人が今一度自分なりに「食の再定義」をする時期に来ているのではないか、と感じます。
食の娯楽性だけを取り上げ、食をその場限りの欲望を満たすものと捉えていると日本は本当に世界から取り残されていくのではないか、そんな思いがふっとよぎりました。
☆今回の食本
『フードテック革命~せ界700腸炎の新産業「食」の進化と再定義』
田中宏隆 岡田亜希子 瀬川明秀 著 外村仁 監修 (日経BP)
☆今日のおまけ~日本の食本来の豊かさが見えるローカルの朝市
日本各地に何十年何百年と続いている朝市が多数あります。
この写真はずっと前に行った青森県八戸市の館鼻岸壁朝市。
私が行った時期は真冬の1月。まだ日の出前の真っ暗な時から始まるのですが、鮮魚、せんべい汁、野菜やりんご、手作りの郷土料理…売る人、買う人の活気と熱気溢れる、その土地のエネルギーを感じるローカル色豊かな朝市でした。コロナが収束したらまた日本中を旅して、日本人の食の豊かさを感じたいな~と思います。