大きい石 (1分小説)
お父さんは、毎日、高校をサボって、クラブやライブ、遊びに興じる私を、近くの海へ連れて行った。
大切なことを教えたい、らしい。
海岸に着くなり、 お父さんは、持参した空のクーラーボックスに、大きい石を入れはじめた。
ボックスは、みるみる、石でいっぱいになった。
「もう、入らないよ」
私がそう言うと、お父さんは首を振った。
「いや。まだ埋まっていない」
次に、サラサラの砂を、すき間に流し込む。
「もう、一杯だって」
いったい、何をしたいのだろう。
「いや、まだまだ」
今度は、そばにあった空き缶に、海水をくんできて、ボックスに流し込んだ。
「分かった。私に、『ダメだと思っていても、まだカンタンにあきらめるな』ということを、言いたいんでしょ」
お父さんは答えた。
「それもある。でも、オレが言いたいのは、もっと大切なことだ。今、先に、大きい石を入れただろ?」
石は、海水に浮かぶこともなく、収まっている。
「先に、大きな石を入れない限り、後から、それを埋める余地はなくなるんだ。 おまえにとって、 大きい石とはなんだ?」
私は考えた。
「デザイナーの夢、家族、親友、彼氏、とか」
「そうだな。自分にとって、何が重要かを見極めてから、頭に埋めていきなさい。
先に、砂や水で満たしてしまうと、人生は、取り返しがつかなくなる」