荒れない成人式 (1分小説)
成人式の冒頭、市長が壇上に立つと、ビール腹の、やや額が広いヤンキーたちが騒ぎだした。
「ひっこめ!」
「マジ、俺の方が、話うまいって!」
場内、失笑。
「テープは、回してるんで。胸元のゼッケンを見たところ、君らも、もう30歳か。年々、勢いがなくなってゆくなあ。しかし、迷惑はいかん。来年も、式に来てもらうからな」
市長が、淡々と注意すると、場内がどっと沸いた。
ヤケになった三十路ヤンキーたちは、クラッカーを鳴らしたが、警官と、担当の指導員に取り押さえられ、あえなく撃沈。
現場にいた、ハタチの現役ヤンキーのオレは、不安になってきた。
「今のところ、オレ、『マイナス』何個?」
隣に座っている、指導員に聞く。
「オシャベリ、LINE、あくびで、3つ」
ヤバッ。スマホをOFFにする。
新成人たちが、なぜ、こんな指導員に採点されないといけないのかは、分からない。けれど、あと2点で、オレもゼッケン組の仲間入りだ。
1コ年下に紛れて、また来年も、強制的に式に参加させられるだなんて、恥ずかしすぎる。
姿勢を正して市長の話を聞くが、5分も経たないうちに眠気がしてきた。
「席、立っていい?友達のところに行きたい」
指導員は、真顔でこたえた。
「『マイナス』、つけるよ」
くそぉ。
市長は、静かになった会場を見渡した。
「成人式でのガマンだなんて、これから先、君らがしなければならない人生のガマンに比べれば、何百分の1にもなりません」
これから先、か。
「きっと、市長は、今ではなく、将来の式のことを考えているんだろうな」
この指導員がいると、どうも恥ずかしくて騒げないんだ。
「いい下見にはなるよね。ボクらの時は、もっと、おとなの成人式にするよ」
6歳児の指導員は、今日、初めて『プラス』をくれた。