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水そうの世界 (1分小説)

「どうして、水そうの中のサメは、同じ水そうの中のイワシを食べないんですか」

クラスの男子生徒が、私にたずねた。

「魚にも縄張りがあるんだ。

最初に、力の弱いイワシを水そうに入れておき、水そう全体が、完全に彼らの縄張りになったところで、力の強いサメを入れる」

こうすると、他の魚の領域で生きることになるサメは、遠慮をしてイワシを襲わないのである。

「ボクらのクラスに、途中からやってきた吉見くんも、みんなに遠慮しているのかな?」

吉見は、以前通っていた高校を暴力沙汰でクビになり、半年前に編入してきた生徒である。

校長と教師陣は何度も話し合い、一番団結力が強い、私のクラス「2年C組」に入れることにした。

本来なら、スグにでも番を張れる力はあるのに、彼は静かなのだ。

大学で教員免許をとってから15年の間、私は、数々の学校で教員を務めてきたが、確かに吉見は不気味な存在に映った。

「きっと、まだ慣れていないのだろう」

吉見は、向こうの方で一人、水そうのサメを見つめている。

「なんだか、力を出し切ってないというか。怖いんです」

男子生徒の不安は、もっともである。

私の指導が悪ければ、一気に形勢逆転。2年C組は崩壊してしまうかもしれない。


吉見が、ゆっくりと近づいてきた。

「水そうのイワシやサメと違って、俺たちは、将来、海へ出ていくんだろ。

俺より強い奴は一杯いるよ。社会での身の守り方、生き方を教えてやれば。

ところで先生は、本当に、社会に出たことがあるの?」

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