お忍び (1分小説)
地方の、山里にある自動車工場。
この工場の近くに、作業靴から本革ブーツまで作ってしまう、オーダーメイドの靴屋があった。
ある日。
閉店間近に、外国人の男性がやってきた。
「靴づれで困っている。この靴を処分し、いそいで新しい革靴を作ってほしい」
なまりのある英語。
オーナーは、男の両足を採寸した。
パソコンでデザインを描き、黒革を裁断。ミシンで縫製、ゴム底を接着。
「ありがとう、ピッタリだ」
男は、新しい靴を履き、コートの襟を立て、足早に去っていった。
「追いかけなくていいの?」
オーナーの妻が、店奥から出てきた。
「うん。日本に来てたんだな。会社や工場が気になっていたのだろう。
左右の靴のゴム底に、車のエンブレムと、警視庁のQRコードを掘っておいた」
「さすが、パソコン職人」
オーナーは、ツイッターに『【拡散】この足跡の男性を追ってください』と入力、ゴム底の画像をアップした。
「今回は、逃げられないぞ」
『《罪状》金融商品取引法違反。 《特徴》ミスター・ビーン氏に極似。 《特技》楽器ケースに入り、海外逃亡すること』
※フィクション(?)です。