1万メートル走 (1分小説)
後ろから、足音が近づいてくる。
この走り方は…、後輩の須藤?
荒い息づかいが聞こえてきた。
たまらず、後ろを振りかえると、やっぱりヤツだ。
「おまえ、なかなかやるよな」
先輩の意地を見せなければ、と思った。
「ありがとうございます」
礼だけ言うと、須藤は、オレを追い越し、行ってしまった。
そうはいくか。負けじとピッチをあげ、食らいつく。
1万メートル走、一番の見せ場。観客は、オレたちの激しいデッドヒートに湧いている。
再び横並びになった時、須藤は言った。
「先輩、周回遅れですよね?」
そして、ヤツの背中は、どんどん小さくなっていった。