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開かずの扉 (1分小説)
5年前、私は、自分の誕生日に兄を失くした。
まだ15歳、交通事故だった。
それ以降、誕生日が嫌いになってしまった。
生前、私たちは、精神論や宗教観についてよく話をした。
神様はいるのか。いるのならば、一体どこに。
有神論者の兄と、無神論者の私は対立したが、皮肉にも、神様はいないということが、彼の死によって証明されたのだ。
信号機を守った兄に、何の落ち度もなかった。あんなに妹想いの、親想いの善人もいなかった。
神様がいるのならば、間違いなく、私ではなく彼をこの世に残すだろう。
きっと、両親も私と同じ気持ちだったに違いない。 兄の部屋のドアに鍵を掛け、めったに会話らしい会話をしなくなった。
仲良く、にぎやかだった家族が、あの日を境に一変してしまった。
今年の誕生日。
私は、どうしても兄に会いたくなり、針金で鍵穴に入る鍵を作ることにした。
両親が出かけたすきに、部屋へ行く。何度目かのトライで、やっとドアが開いた。
パイプベッドや木製の机、黒革の学生カバン、洋画のポスター。ホコリと共に、わずかに残る兄の匂い。
懐かしい。
机の引き出しを、そっと引いてみる。
綺麗にラッピングされた、高さ5センチほどの箱があった。
メッセージカードには、「めぐみへ お誕生日おめでとう。やっと神様のいる場所が分かったよ」と書かれていた。
5年前の今日、私に渡す予定だったプレゼントだ。
手鏡に映し出された神様は、泣き笑いの顔でこちらを見つめていた。