#85 本の感想2024年6~9月

○『電車のなかで本を読む』/島田潤一郎
エッセイ+本の紹介を合わせた1冊。
著者の生活、人生、考え方などが書かれており、さらに話に関連して本の紹介もされています。
紹介されている本のほとんどは初めて知るものばかりで、今後の本選びの参考になりそうです。
本の内容を直接的に綴られるより、自分の考えを通して間接的に触れられる方がより本への興味をかき立てられます。
著者がどんな人生を歩んできたか。どんな考えを持っているか。その一端を垣間見ることができて良かったです。
今後も著者の本にたくさん触れていきたいと思います。

○『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』/奈良敏行著、三砂慶明編
鳥取市内で43年間営業していた町の本屋「定有堂書店」。
地方都市にありながら書店関係者や本好きがこぞって訪れたという本屋。
人生について、人との交わりについて考えさせられる内容でした。
「「個性」にも賞味期限がある」⇒だからこそ「何度でも変化し続けること」が重要であること。
「本屋は本好きの人たちであふれていた方がいい」「本好きどうしで知り合える場所だったらもっといい」「本が好きな人は映画も好きだ。音楽も好きだ」「読書会とかの人間関係にはなじめていました。「意味」をめぐっての人間関係だったから」「人との交わりはもともと苦手だが、読書会などの「本」をはさんでの交わりは好き」⇒本を通しての人との交わり方に関する考え方に共感できました。同じ考えの方がいたことにうれしさを感じました。
「町の本屋にはなるべく目的なしに入るのがいいかもしれません。生きるのに迷ったとき、辻占を求めるように」⇒これが本屋の本質ではないかと思います。悩みに対して直接的にネットで調べるとそれらしい答えが出てきます。でも、もっと深い答えは本の中に隠れていることが往々にしてあります。何気なく手に取った本の中に、自分が悩んでいることに対する解決のヒントが隠されているのはすごいことです。本の力を感じます。
私が鳥取に行ったときにはすでに閉店していましたが、定有堂書店という本屋があった事実は本を通して残り続けていくでしょう。

〇『太陽と乙女』/森見登美彦
いろいろな媒体で書かれたエッセイをまとめた本。
台湾の雑誌に連載されたエッセイでは小説の書くことについての苦悩が書かれており、とても興味深い内容でした。
いつもの著者らしい面白おかしい文章だけではない、また新たな魅力を感じる1冊でした。
500ページ以上のボリュームがあるので、気が向いたときに少しずつ読むのがおすすめです。

〇『夜のかくれんぼ』/星新一
熊本の長崎次郎書店で購入した本。
同店で最も売れた本だそうです。
ちょっとブラックなショートショートが満載です。
好きな話は「こんな時代が」と「うすのろ葬礼」。
「こんな時代が」は戦争がない平和な世の中で、生活もすべてロボットが何不自由なくやってくれる夢のような世界が描かれています。
とても楽園のようですが、本当にそれでいいのだろうかと考えさせられます。
ふと思ったのですが、楽園という言葉は怖いと思います。
「うすのろ葬礼」はある男が死体にいろいろしようとするも、周りから次々と拒絶されてしまう話。
レストランで水を飲ませようとしたり、タクシーに乗車拒否されたり、墓に埋めようとしたり、火葬しようとしたり、棺桶を買おうとしたり・・・と死体のためにあれこれやってあげようとするも、周りからの反応は冷たい者でした。
ちょっと男に同情してしまったのですが、最後のオチが秀逸で思わず唸りました。

○『老人と海』/ヘミングウェイ
老漁師の男が海とひたすれ向き合う話。
彼を慕う少年も良いスパイスになっています。
海と向き合うのは自分自身と向き合うということなのかもしれません。
印象に残ったのは「だれでも何かを殺して生きているんだ」というセリフ。
生き物の犠牲を上に成り立っているのが我々人間であるということを突きつけられます。

○『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』/岸田奈美
中学生のときに父親が急死、高校生のときに母親が下半身麻痺、弟が自閉症という家族を持つ著者のエッセイ。
大変な状況なのに、文章からはまったく悲壮感が感じられず、むしろ軽やかで面白おかしい内容になっています。
甲子園の売り子バイトについて書かれた話が個人的に好きでした。
バイトの面接で球審・敷田のものまねをするメンタルがすごいなと思いました。
著者の特徴は決断の早さだと思います。
生死の彷徨っている母親の手術同意、大学の講義で出会ったばかりの人物の起業に参加するなど私にはまねのできない早さです。
落ち込んだときの立ち直る早さは圧巻です。
そして、タイトルの言葉が良いですね。
家族だからなんでも仲良くしなければいけないということはありません。
さくらももこのエッセイ「メルヘン翁」でも、お父さん、お母さん、お姉ちゃんは家族だから好きなのではなく、人間として好きだという話が出てきます(おじいちゃんは大嫌い)。
それに通ずるものがありますね。
著者の他のエッセイも読んでみたいです。

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