大好物は夫の居ぬ間に楽しみたい主婦の探偵ごっこ日記。(2024.1.24)
自分専用で買った物がことごとく夫に消費される主婦といえば、私のことだ。お菓子から本まで、ありとあらゆるものを夫にちゃっかり消費される運命にあるらしい。
先日もチョコモナカジャンボを2個買っておいた。チョコアイス好きな長男と食べようと冷凍庫を開けたら、なんと1個しかない。昨日の午前中に買ってきて、冷凍庫にしまったのは私。夕方見た時はまだ2個あった。今日の午前中、家にいたのは私だけ。今、アイスを食べるために開けるまで、冷凍庫に触っていない。
つまり、犯行時刻は昨日の夜。
私がキッチンやリビングにいなかった時間に限られる。
静かに考えを巡らせた。私がリビングにいなかった時間と言えば、入浴中か睡眠中。その時間に何者かがキッチンに忍び込んで、愛しのチョコモナカジャンボをかっさらっていったのだ。この時点で、だいたい犯人の見当はついている。しかし、まだ証拠が足りない。
念のため、長男や二男にも聞いてみた。
「ねえ、チョコモナカジャンボ食べた?」
すると、子どもたちは口々に答えた。
「食べてないよ。買ってきたのは知ってたけど」
「ぼくがパピコ出したときは、まだチョコモナカジャンボあったよ」
そう、長男にはちゃんとチョコモナカジャンボがあることを知らせてあった。長男からすると、自分のものが確保された状態だから、わざわざ隠れて食べるとは考えにくい。育ち盛りとはいえ、まだ今のところがっついていない。シロだと思う。
一方の二男は、アイスはパピコ命だ。他のアイスもたまには食べるけど、基本的にパピコを食べる。サプリメントを服用しているかのように、毎日パピコを食す。それに、隠れて食べても黙ってられないのが二男だから、おそらくシロだろう。
2人の話が本当だとするなら、犯人は1人しかいない。しかし、物証が必要だ。そこで私は、プラスチックごみのごみ箱を覗いてみることにした。
そっとフタをあける。すると、チョコモナカジャンボの空袋が、無造作に捨ててあるではないか。それを手を伸ばして拾い上げ、まじまじと観察した。
空袋の形で、確信する。
犯人は夫だ。
間違いない。
これはちゃんと言わなくては。
でも、ふと思った。
普通に追及したって面白くない。
しっかり自白させないとね。
私は、子どもたちを呼び寄せた。
「犯人はお父さんだよ。でも、いきなり犯人扱いするとお父さん機嫌が悪くなるよね。お母さんにいい考えがあるから、一緒にやってくれる?」
「うん、わかった!」
こうして私たちは、犯人をあぶりだすための罠を仕掛けた。
🍦
夜、遅れて帰ってきた夫が夕食を終えた。
長男がおもむろに立ち上がる。
「お母さん、チョコモナカジャンボってある?」
「あるよ。2つ買っておいたから、私も食べたい」
「じゃあ、お母さんの分も出すね」
長男、冷凍庫を開けた。
ごそごそと中を探している。
「お母さん、1つしかないよ」
「え?昨日確かに2つ買ってきたのに!」
「ホントホント、1つしかないよ」
「そうなの、どれどれ」
私も冷凍庫をのぞいた。
「ないね。私たちのチョコモナカジャンボがない」
「だよね。おかしいね。誰か食べたのかな」
すると、二男がこちらに近づきながら言った。
「ぼくはパピコしか食べてないよ」
もちろん、ここまで打ち合わせ通りだ。
今のところ、うまくいってる。
すると、夫が入ってきた。
「え、オレ知らないよ」
──しらばっくれるな。証拠は挙がってるんだぞ。
私は普通に会話を続ける。
「そうなの?じゃあ、何でないんだろうね」
「そりゃ、誰かが食べたからでしょ」
「でも、誰も食べてないのに減るのはおかしいね」
夫は、目を泳がせながらその場をそっと離れようとする。そこで私は、遮るように夫の前に出た。
「じゃあさ、ごみ箱見てみようか。一緒に見てよ」
「…わかった」
私はごみ箱を覗いて、チョコモナカジャンボの空袋を取り出した。
「誰か食べたね」
空袋を夫の前にちらつかせる。
夫の目は相変わらず泳いでいる。
子どもたちの視線は、夫に注がれていた。
「食べたの、お父さんだよね?」
おだやかに、でも視線を外さず、夫を問い詰めた。
「え、ちがうよ。子どもたちじゃない?」
「子どもたちは違うって言ってるよ」
「うそ、なんで?」
夫はうろたえているが、認めようとはしない。
まったく、往生際が悪い。
ネタは上がってんだ。
「あのさ。袋の開け方が、私や子どもたちとちがうのね。お父さんのやり方だよね」
そう、私が犯人を夫と断定したのは、袋の開け方だ。
私や子どもたちは、袋のギザギザ部分を手で開けるか、ハサミで切って開ける。袋から少しずつモナカを出して食べるスタイル。
しかし夫は、ギザギザ部分を裂いて、大きく開ける。そして、モナカを全部取り出し、ガブっと頬張るのだ。
ゴミ箱の中にあった空袋は、ギザギザが裂かれ、大きく開かれていた。
「なんだよー、バレないと思ったのに!」
夫はとうとう観念した。
すっかりうなだれている。
構わず追及を続ける。
「いつ食べたの?」
「昨日の夜、お母さんがお風呂に入ってるときです」
「私と〇〇くん(長男)の分だと知ってたでしょ」
「わかってたし普段は食べないけど、昨日は食べたくなった」
「食べていいと思ったの?」
「食べても、後で補充すればバレないと思った…でも買い忘れました。ごめんなさい」
「買い忘れたとかじゃなくてさ、最初から食べたって正直に言えばよかったんじゃない?」
「そうです。おっしゃるとおりです。ごめんなさい」
しょんぼりする夫。
さっさと白状して楽になればよかったのに。
往生際が悪いったらありゃしない。
この後、夫がコンビニへチョコモナカジャンボを買いに行ったのは、言うまでもない。
夫がコンビニに行っている間、子どもたちが私に寄ってきた。
「お母さん、刑事さんみたいだった」
「いや、刑事というより探偵のつもりだったよ」
「そうなの?とにかく、解決してよかったね」
「良かったよ。好きなものはお父さんがいないうちに食べるのがよさそうだね」
こうして今日も、わが家の平和を守った。
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