鈴木涼美「「AV女優」の社会学」
性の商品化を議題とする多くの立場の議論が、「自由意志」といった言葉を軸に進められている事態に対しての懐疑もあった。世代的なものもあるのか、いわゆるフェミニズム的なものへの距離感と、そういった性の商品化にまつわる議論への違和感と、何か遠いところの話をしているように感じるセックスワーク論への微妙な不満を持ちながら、それをどんな別の軸で語ることができるのか。
(鈴木涼美「「AV女優」の社会学」から)
「AV女優」または「セクシー女優」と呼ばれるその職業は、他のいかなる性を商品化する職業とも一線を画しているように思う。有名なアイドルグループを卒業し、突如その世界に足を踏み入れ今やTwitterフォロワー数が100万人を超える女優もいれば、AVという産業が存在しない中国や韓国へその活動の軸足を移し、国内のみならずアジア各国にファンを持つ女優も存在する。「アダルトビデオ」という日本独自のコンテンツ産業がグローバリゼーションの波を受け、アジア圏に拡散している。そうして”アジア級”の人気を獲得することに成功すると、莫大なお金の流れが生まれていく。
しかし、そうした”成功例”は他の多くのそうでない女優の上に成り立っている。本書では、慶應義塾大学を卒業し、東京大学大学院で修士号を取得した元AV女優であり、元日経新聞社員であり社会学者の著者がエスノグラフィーと呼ばれる社会学や文化人類学の調査手法を用いてその産業の成立から時代とともに変化するその職業についての分析をしている。本書を読み進めると、AV女優という職業の特殊性を改めて実感すると同時に、その普遍性が浮き彫りになっていく。中でも全篇を通して「自由意志」に関する議論が展開されていくが、丁寧にその論理が立てられていくのを追体験していく感覚に心地よささえも感じる。著者も言及しているが、同時に本書を通してもまだなお掴みきれないその実態や、調査研究の難しさがあることも事実で、今後も多数の研究者により文化的な側面はもちろん、様々な領域からの研究が出てくることに期待したくなる一冊。
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