【連載第1回】RPEとコンディション、現場での活用事例
ケガの予防やパフォーマンス向上を目的として、RPE(主観的運動強度)やACWR(急性:慢性負荷率)といった指標を活用するチームが日本でも徐々に増えつつあります。
とはいえ、高校や大学のレベルでは、データアナリストやストレングス&コンディショニング(以下、S&C)専門のコーチがついて指導しているチームまだ少なく、「どうやって数字を見たらいいのか?」、「チーム内で実際にどうデータを活用したらいいのか?」と試行錯誤している指導者が多いのではないでしょうか。
そんな指導者らの悩みに応えるため、今回は臼井智洋S&Cコーチに、RPEやACWRのデータ活用法やチーム内での監督・コーチとの連携について3回シリーズで解説していただきます。選手指導にかかわる全員が共通言語としてデータを活用できるようになり、チームのパフォーマンス向上に役ててもらえれば何よりです。
■第1回「RPEとコンディション、現場での活用事例」
■第2回「RPE活用におけるコーチとの連携」(前編・後編)
■第3回「フィットネス疲労理論とACWR概論」(前編・後編)
【データ活用事例1】試合に向けたピーキング
連載第1回は、チーム用クラウドソフト Sunbears の統計機能を使ったデータの活用事例として、大学女子バスケットボールチームにおける、大会があった月の1カ月間のRPEとコンディションのデータを振り返ります。
前提条件は下記の通りです。
最初のグラフ(1)は、大会があった月の1カ月間における、ポジション別の選手のsRPE(セッションRPE=棒グラフ)とコンディション(折れ線グラフ)を示しています。ここでは、分かりやすいようにポイントガード(PG)のポジションの選手たちのデータを抽出しました。
ーー 最初に臼井コーチはどこを見ますか?
まず①の期間、つまり試合当日(9/15~17、9/20~21)のコンディションがどうなっているかを確認します。このPGの選手たちは比較的良いコンディションになっていると思います。
ーー 何をもって良いコンディションとみるのか教えてください。
具体的には、①で予選期間(9/15~17)のコンディションがその直前の③を上回っていること、そして連戦の中でも大きく低下することなく21日の決勝戦に向かうことができています。
大会4日前の②(9/11)では、sRPEの数値が1500と高い値になっており練習負荷がかなりハードに上がっています。従って翌日以降の3日間は練習強度を落として負荷量を調整(③)。コンディションを落としたものの、①の9月15日試合当日にはしっかりとコンディションが上がってきており、適正な状態に持っていくことができたことが分かります。
つまり、試合に向けたピーキングが適切に行われたと見ることができます。
【データ活用事例2】大会期間中のコンディションの維持とリカバリー
ーー 次に見るポイントはどこになりますか?
9月15日から21日までの大会期間を通して見ると、④のところで、3日間の予選を終えた後のコンディションがいったん落ちていっています。しかし18日と19日でしっかりとリカバリーをすることができ、⑤で見られるように、20日の準決勝と21日の決勝では再び良いコンディションを取り戻すことができているのが分かるかと思います。
ーー リカバリーが大事ということですね。本戦に向けてどういったリカバリーが必要ですか?
はい。大会期間中のコンディション維持のためには十分なリカバリーが重要です。中でも大事なのは、十分な睡眠、栄養摂取、水分補給です。睡眠時間や体重変化のモニタリングが、コンディション悪化の兆候を事前に察知することに役立つかもしれません。また、ただ休むだけではなく、この期間でも適切な負荷(強度と量)でのスキル練習やトレーニングをすることで、その後に続く試合への準備を行うことができます。
【データ活用事例3】大会後のリカバリー具合の確認と練習負荷量の調整
事例の3つ目は、大会が終了した後のコンディションについて見ていきたいと思います。
ーー 大会直後は休みが2日間ありsRPEはいったん下がっています。その後また1日休みを挟んでsRPEがグンと上がっています。ここから読み取れることを教えてください。
グラフ(3)からは、⑥に見られる通り、大会を終えて2日間の休みを取った後、9月24日のコンディションがなかなか戻ってきていないのが読み取れます。そのためここの3日間は、あえて負荷を上げずに低い負荷で練習を行っています。
つまりここで確認できるのは、9月24、25、26日は大会後のリカバリーが思った以上にできていないため負荷を落とした。そのおかげで、⑦の通り9月27、28日にはコンディションが戻ってきたということです。
ーー 活用事例2で「大会期間中」のリカバリーの重要性について教えていただきましたが、「大会後」のリカバリーで特に注意することは何ですか?
重要な試合や大会を終えた後には、心身のリカバリーのために十分なオフを取ることが必要になります。もちろん、その後の試合や大会の時期によってオフ期間の設定には様々な戦略が考えられます。
またオフ明けには、十分にリカバリーしてコンディションが回復しているか、ということを数値と実際のプレーを見て評価をします。このグラフの例ではコンディション回復が十分ではないため、練習負荷を上げていません。
場合によっては、疲労が抜けてコンディション数値は改善していても、休んだことにより身体が強い力を出すための準備ができていないこともあります。オフ明けにおいては、状況を評価できるまでは、急激に負荷を上げないことが重要な対策の一つになります。
【データ活用事例4】試合での負荷耐性をつけるための負荷のかけ方
ーー 次に、大会前後の負荷の変動について教えて下さい。
このグラフ(4)では、⑧のところで、予選が始まってからのsRPEが900~1000になっているのが確認できます。そこにいくまでの過程として、⑨の大会前の練習では試合の負荷を超える負荷をかけているのが分かるかと思います。つまり、試合よりも強度の高い練習をしたり、試合に向けて負荷に対する耐性をつけるためのトレーニングが正しく行われているということが確認できるわけです。
ーー 試合をピークとした場合に、それに対して何割増しの負荷をかけると良いといった基準はあるのでしょうか?
具体的な基準があるとは一概には言えませんが、このケースだと2~3割ぐらい高いレベルの練習ができていると言えます。
ーー ここでのポイントは何でしょうか?
はい、大事なポイントが二つあります。一つは、RPEを使う一つの大きな役割として「試合や大会期間にかかる負荷を想定し、それに対する準備を行う」という点です。試合もしくは大会期間中の負荷に耐えられるように、それ以上の負荷をかける期間を作るということが前提として必要になります。
もう少しわかりやすく表現すると、「試合・大会期間中が一番強度が高い(もしくは負荷がかかっている)と選手たちが感じないようにする」ということです。端的に言えば、試合が楽になるように準備をするということです。
もう一つのポイントは、そうは言っても、負荷をかけすぎて試合当日にコンディションが戻ってこないとか、コンディションが落ちてしまうといったことは避けなければいけないという点です。
ーー 舵取りというか調整が難しいですね。
まさに、難しい舵取りを全て「感覚」でやるのは怖くないですか? 怖いですよね。であればRPEといった数値化されたもので舵取りをしていくことが大事になってきますよ、ということです。
もちろんその数値は選手の主観的な感覚が基になっているのですが。試合や大会に向けて練習スケジュールや内容をプランニングし、実際に練習が計画通りに進んでいるのかをモニタリングすることが大事だということです。
特に、モニタリングをする際にはRPEとコンディションは常にセットで考えます。練習負荷(=RPE)に対して反応(=コンディション)がどのように変化していくかを日々見ていく必要があります。データがあれば、試合や大会期間中にどのくらいの負荷がかかるかを事前に予測することも可能になります。
第1回まとめ
>連載第2回『RPEを活用したコーチとの連携(前編)』へ続く
文・久保田久美
編集・翻訳者/サポートスペシャリスト
Sunbears マーケティングチーム
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