空の境界 第1章 「俯瞰風景」 感想(ネタバレ有)

原作未読。
高校生の時に初めて観て、話の内容はよくわからなかったものの、映像と音楽の美しさにとても影響を受けた作品。

改めてこの作品を観た時に、主題は自殺にある、と見せかけて逃走、脱出なのではないかと思った。

物語後半で橙子が逃走には目的のあるものとないものの二種類があり、前者を飛行、後者を浮遊であると言った。
ここで言う逃走とは何からの逃走なのか?
この作品の中でいえば(霧絵の視点からいえば)今の自分を取り巻く世界からの逃走なのではないだろうか。

家族・友人もいない中、10年間も病室の中で過ごしほとんど抜け殻のような生活を送っていた霧絵にはもはや生きているという感覚はなかっただろう。
ただ死ぬまで生き続けるだけ、そういった状況、感覚に心が枯れていってしまったことは想像に難くない。
そんな日々の中、もう一つの肉体を手にした後、なんやかんやあって式から鮮やかな閃光のような、鮮烈な死を体験させられた。
それはきっと、霧絵にとって今までにないほどの生の実感を与えたことだろう。
そして霧絵はこう考えた。
これからの曖昧な日々を過ごすくらいなら、あの鮮烈な死に生を求めたい。
曖昧な日々という世界からの逃走の結果として、霧絵は自殺を選択したのではないだろうか。

物語の最後に、橙子は霧絵の自殺現場を後にし、こう言った。
「自殺に理由はない、今日は飛べなかったんだろう。」
彼女はもう飛べない。
なぜならもう死んでしまったから。
鮮花が自殺に対して明確にネガティブな印象を持っていることに対し、橙子は極めてフラットな認識を持っている風に見える。
しかし、死んでしまったらもう飛ぶことができない、というメッセージには自殺に対して少なからず彼女も否定的なのかもしれない。


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