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『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで感じた違和感

「絶大な共感から社会現象を巻き起こした話題作!」のコピーに惹かれて、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読了。前々からさまざまな本屋で、顔のない女性の印象的な表紙が山積みになった光景を見ていたので気になってはいた。

▼あらすじ
ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかのようなキム・ジヨン。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児…韓国において1982年生まれに一番多い名前だというキム・ジヨンの半生を通して、女性が人生で直面するさまざまな困難が描かれる。

帯には「女性たちの絶望が詰まったこの本は、 未来に向かうための希望の書」と書かれており、これまた興味をそそる。今回は読んでみての簡単な感想を。

※「フェミニズム」をテーマにした作品ですが、あくまで当方には特定の強い思想はなく、個人の感想として軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。

読んでみての感想、第一声は「韓国の本だからこそ、内容もある意味客観的に読めるんだろうな」と。日本だったら炎上ものだ(一部ではしているようだけど)。この本は「韓国における男尊女卑の背景」をしっかりと歴史に基づいて描写してくれるので、当時の韓国の情景を思い浮かべやすく、日本との違いも分かりやすい。

それでも韓国のみならず日本でも“共感”をコピーに好意的に本屋で山積みになっているのは、いい意味で“自分もとても共感できる他人事”としてちょうど良い塩梅で線を引くことができるからなのではないか、と。つまり、内側ではなく、外から強く共感できる読み物として成り立っているからだと思った。日本の文化として、日本の当事者が書くにはあまりに刺激が強すぎる。

本作を通して、私も現代を生きるアラサー女性の1人として、女性の不条理や痴漢を含めた男性に対するあるあるの恐怖感など、言いたいことはとても伝わってくる、とは思った。しかし同時に自分を取り巻く環境を考えると妙に腑に落ちない部分もあったので、残しておきたい。

それはズバリ、「結婚(または妊娠出産)とキャリア」について。韓国だから、多少違うというのもあるかもしれないが、日本で多数の女性から共感の声が集まっているとのことで国によるテーマの認識ズレは一旦割愛する。主人公のジヨンは、キャリアを積み重ねていくこと望みながらも、出産・育児によって“結果的に”その夢を諦めざるを得なくなる。旦那が無責任な人だったわけではなく、ただ「どちらかが辞めなければならない」となったときに、ジヨン氏の方が収入が低かったがために身を引いたのだ。本作では“女性だから”諦めなければならないこと--特にキャリアや夢、自分の時間など--に焦点が当てられている。また、印象的なエピソードでは、サークルで愛想を振りまいて“華”として扱われることが女の役目であり、サークル長などのコミュニティの役職につけない(これはジヨン氏が会社勤めを始めた後も形を変えて彼女を悩ませる)という内容もあった。

もちろんジヨン氏のような、妊娠や出産によってキャリアを諦めざるを得なくなった人や男尊女卑の社会的風潮によって被害を被ってきた人もいるだろう。特に育児と仕事の両立に対して、助けを求めている人には、適切な社会的措置によって手が差しべられるような世の中であってほしいと強く思う

だが、この物語に私は不思議と違和感を覚えた。

私の周りで見かける現実では、「ジヨンがなりたくないと思っている女性像」を好き好んで目指している層が多かったからだ。

25歳を過ぎて、私の周りでも結婚や出産はよく聞くテーマの一つになった。かくいう筆者は、今年中に3件の結婚式の招待を受けている。同じく招待客の友人には、マッチングアプリや街コンを駆使して、絶賛婚活を進めている友人も多い。

そして、彼女たち(そしてすでに結婚した友人の話を鑑みても)の結婚に求める要件を言葉を選ばずに要約すると「なるべく(パートナーのお金を頼って)楽をして暮らしたい」というものなのだ。もちろん、全員が全員とは言わない。それに、現実的な結婚生活にお金が必要なのは重々わかる。しかし、いわゆる婚活市場における“ハイスペ男子”を定義するバロメーターにおいても、年収が含まれていることも言うまでもないだろう。私とて頭を縦に振って完全に同意はできないが、結婚生活に求めるものは人それぞれなので、その良し悪しの議論はここでは一回置いておこう。

ジヨン氏のように「妊娠・出産をしながらも自分のキャリアを築いていきたい」人もいる中で「(ぶっちゃけ)出産をしたあとはキャリアのことを考えずパートナーのお金で暮らしていきたい/或いは共働きでもいいけど自分よりはパートナーに稼いで欲しい」と考えている人は少なくないのではないか(というか、私の友人の何人かはそう溢していた)。女の敵は女、と言ってしまうと身も蓋もないが、ジヨン氏の先程のサークルのエピソードで言っても“役職なんていいから男にチヤホヤされたい”女性だって少なからずいたのではないかと思ってしまう。

理想だけをいうのであれば、性そのもの、そして性に付随するとされている役割にとらわれずすべての人が家族を持つことと夢を両立できたら良いと思う。ただ、それが難しい環境や情勢では、本作で描かれているような純粋なキャリア思考の女性ばかりではないのではないかとすら感じてしまった。女性が大人になって生き方が変わると友人同士でも疎遠になりがちなのは、ここで“どんな道を良いと思ったか”が明確化されるからではないのかとも思う。今回私は未婚で独身、かつ仕事もフリーランスという不安定な身であるため、たまたま比較的フラットにみられた気がするが、仮に望んで専業主婦になった友人がこれを読んだら「共感」の声が上がるのかは気になるところだった

つらつらと書いてはきたが、あくまでこれも私の一意見であるし、意見を述べたくなるというのは心が揺さぶられた作品であった、ということでもあると思う。共感、とは少し異なるが、センセーショナルな作品であったことは間違いない。



2023.3.23
すなくじら


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