スノードームの話
突然であるが、人は心にスノードームを持っている、と思う。
正確にいえば、持っている人といない人がいる。
スノードーム広さや大きさは様々で、私たちはその中で暮らしている。
スノードームには頑丈なドアと、一つ一つ形状の違う鍵がつけられている。
スノードームの中には、あらゆる私の好きなものが詰まっている。
色は大好きな黒で統一されて、ゴシックな雰囲気に合うビロードのカーテン。本棚には吉本ばななの本や中世モチーフの漫画が溢れ、closetにはフリルがあしらわれた変形ワンピース。バックミュージックはゆったりとした、でも幼い少女のような繊細な可憐さのある女性の声がいい。charaなんかぴったりだ。
わたしはスノードームの中から、毎日外を眺める。
スノードームを持っていない人には、絶対に私のスノードームのことは教えない。
でもたまに、スノードームを持っていないのに、どんなドアも開けるマスターキーを持っている人に遭遇したりする。
そういう時は、素直にすごいなぁって思うし、スノードームのなかをちょっとだけ見せて、ミルクたっぷりの紅茶を出してあげたりもする。
スノードームとスノードームの間にだけ、橋をかけることができる。
だから、スノードーム同士を渡って、渡って誰かのスノードームにお邪魔させてもらうこともあるし、その逆もある。
スノードームの中にあるものは、減らない。
私は気に入ったスノードームがあると、中のものをそのままごっそり自分のスノードームに運び込んでくる。
素敵な人。私は私のスノードームを一緒に作ってくれる人が好きだ。
私のスノードームには、あったかいくて、優しくて、切ないものがたくさん詰まっている。ふっても、ひっくり返しても、絶対に壊れない。
でも、自分の意思でドアを開け、一歩外に出るときは、必ずガチガチに武装しなければならない。
甲冑をかぶって、剣を構え、周りを見ながら進む。
橋がかかっていないところにでるのは疲れる。そして、とてもとても怖い。だから最近は、スノードームの行き来しかしていない。
本当は行き来もいらない。
私はスノードームを、どんどんおっきくてキラキラではちきれそうな空間にして、たった一人の誰かだけを選んで招き入れたい。その時は、わたしはスノードームのドアを内側から外そう。ずっとキラキラをみながら、やっぱりミルクたっぷりのマルコ・ポーロを飲んでいたい。
いつかきっと。