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#Koibana

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実は続いているという事実.
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書き残したくなかった話。Ver.3

気がつけば、8月は終わりの田圃のあぜ道は赤くなりかけている。 オレンジ色の花の香りの気配はすぐそこでしているけれど、 私の嗅覚では、あの懐かしさは、まだ感じとることはできなかった。 報告を約束したはずの彼女からは 催促のメッセージはもちろんこなかった。 半袖でも暑かったあの季節からは想像ができないくらい、今はもう肌寒い。 あの約束をしたころの、ふわふわ浮いていた自分が、 数日間でこんな風に変貌するとは夢にも思ってみなかった。 やっぱり、人生は予想ができないものだと思う。

君のことをどれくらいすきなのかを語るのに、制限時間をください。

何が正しいか。なんて、私ときみで決めてしまえばいい。 赤ワインを辛めのジンジャーエールで割った ワインベースのカクテルが私の手元に運ばれてくるのは、 もうこれで3回目だった。 定期的に集まる今日のメンバーは私をよく知る友人たちで、 毎回、それぞれの職場の話か、 各自の恋愛のすすみ具合を報告するような会になっている。 メンバーの半分が三十路になってもなお、 サラッと集まれてしまうのは、 「結婚してなくてよかった」 と呪文のように繰り返される言葉の通りだ。 たいてい場合、その場

熟成

心拍数が、あがる。 指先が、冷たくなってくる。 息が、しづらくなる。 まだ、私はこんなにも弱い。 「あのころ」と呼ばれる過去が、 まだ、私の未来を封鎖する。 誰かに裏切られるくらいなら、 最初から信用しなければいいと、 そんな風にしか世界を捉えられなくなって、 もう、8年が経つ。 頭でも理解していて、 その理由も納得していて、 それでも心がついてきてくれない時は、 どうすればいいのだろうか。 踏み出せない何かが きっとそこに在るのだろうと、 そうも考えるけれど、

さみしいはなくなった

何が自分を落ち着かせているのか、 正直、今の私にはわからない。 とても愛しいと感じているのに、 会いたいと思わない。 連絡をとりたいと思わない。 私は私がおかしくなってしまったのだろかと、 いつもと違う自分の思考回路に 惑わされる。 確証があるわけでもなく、 不安があるわけでもない。 ただ少しだけいつもと違うのは、 できる限り「らしく」在ってほしいと思うことだ。 ここまで文章にしてみて、 今の私の行動はとても「彼女」に似ていると思った。 大切な人を大切にする。 言葉以上に難

風と波がすき。ver.2

心友に会いたかったな。 ******

¥100

せめて地球は周ってみせた

少し長めの仕事を終えて、 少し長めの坂道を自転車で登る。 最後の一息で汗だくになった額を 左手でぬぐいながら、 前方から通りすぎる ぬるい風に浸っていると、 満月を過ぎたばかりのはずの星空が プラネタリウム以上のスケールで 疲れた目に飛び込んできた瞬間、 光が反射したみたいに涙があふれ出した。 この間は見たくても見れなったのに、 ふとした瞬間、 私が無抵抗な瞬間に、 そんな風にやってのけるから、 泣いてしまったではないか。 ******* 私がその歌を好きなのは その歌

塩と胡椒のタマゴサンド

仕事終わりに飛び乗った電車が私にはまだ馴染みのない場所へと向かう。 仕事に追われているせいか、2時間も約束の時間をまわって仕舞った。 その連絡にも彼は怒りもず心なしか嬉しそうに「気を付けて」と言う。 空港から彼の家までの車中、手作りのタマゴサンドを私に 「どうぞ」 と渡し、「ここは星が綺麗に見える」 と彼は言ったけれど、 今日はどうも曇が薄く伸びていて、 少し、今の私の心に似ていると思った。 運転席で彼は「昨日の夜は夏の大三角形も天の川も見えた」 と、また嬉しそうに話す。

ないものをねだらない話。

あ。なんだか、君に繋がった感じがする。 特別に何か連絡を取り合ったわけでもなく、 流行のSNSの投稿を見たわけでもなく、 休憩中に君のことを思い出しただけなのだけれど。 昨日、なんだか変だと、 自分の中でも自分が分裂していて、どうしようかと思っていて、 かといって特別な行動をとったわけでもなく、 なんとなくそのままになっていた。 確かに「欲しがるあたし」は一刻も早く繋がりたいと 望んでいたのも事実なのだけれど、 「欲しがらないわたし」は案外冷静沈着で、 今は目の前の事柄

書き残したくなかった話。

この間友達と最近の自分の話をした。 3カ月に1回くらいのペースでで出くわす彼女は この大勢の仲間と呼ばれる団体の中でも少し付き合いが長い。 今も大して変わらないだろうけれど、 今より少し子供だった残酷なあたしを知っている。 今のあたしがあの頃のあたしに出会ったら、 先ず、笑い飛ばすだろうと思う。 それから今のあたしと、少し未来のあたしが出会ったらきっと また、鼻で笑うんだと思う。

¥100

期待と予感の話。

抱きしめられながら眠りについて、目が覚めてもわたしの場所は変わっていなかった。

¥100

京都の居酒屋カウンター

仕事で疲れている年度末、ふと通りがけの立ち呑み屋に 何となくそれはもう吸い込まれるように入って ハイボールを飲んでいたらお酒に呑まれない程度に 人生の大先輩が軽く、お説教をしてくれた話。 「ちょっと混んできたから隣、良いですか?」 すでに泣きじゃくっているあたしの隣に 日本酒を片手に寄り添ってくれたのは、あたしのお父さんと、 そう歳は放れていなさそうな上司っぽい男の人だった。 何度か来たことのあるこのこじんまりとした店舗で 確かに見たことのある顔だと思った。 「君み