前略
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秋の空 鴉が一羽舞うように君を偲んでいただけだった
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届かぬか 天を向けども馬酔木花
落陽が白夜を夢見たすゑのゲシ
香り立つ 朱に交わらぬ藤袴
福寿草 ひとふたひらがはらと落つ
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心音を喰らう一撃 正体を名もなき声の恋の産声と呼べば
あの夏の日陰のような正体を知れたのならば違いましたか
木漏れ日に佇む日陰松露色 雲間を青の写真と称す
称すれば世界も君を覚ゆれどそれすら淡き言の葉でせう
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薄らげば陽炎の色留まらず 夏、ラムネ瓶、バス停の音
老朽化した箱型の橙は儚けれども尚燻れず
褪せたのは私と貴方それぞれの目線の先の貴方と私
蝋燭の灯火いずれ泡沫に そこには煙も残らぬでしょう
果ては空疎 残り香さえも忽然と夜を欺き逐電するか
今はただ瞼に偲ぶ愛しきを 夏、貴方色、蛍の光
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足跡と火照った紅葉翻し 魔法みたいに釁隙も染まる
陸抜の零、青天井の反射 雲翳を踏み踊りませんか
藍滲む 雨音を酌む 愛を喰む 倦まぬようにその手には傘
色付いて花緑青で影法師 見上ればもう、いつか、また明日
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ひとつずつノートとカメラ携えて ひとつ残らず思い詠めば
余りある白を知るから思い出に押し花よ咲き誇らんことを
けれどまた花の祈りに宵の月 貴方の影を脳裏に掠め
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宛先不明の三十二音書翰、或いは無意味な捨て書きとも.
何もかも零れていくから、だから今、畳の上で良き夢を見ろ
ずるいひと! とびきり込めた愛なんぞ笑い話よ、我楽多ばかりの
あたし貴方の呼ぶ声がすきだった いまでものこる名の音も耳に
5時の夜、6時の夕方、さらば君! 白昼夢、君、さよならの果て
手遅れと重力、夏に平伏して あぁ、君は空を泳げたのかい?
あらたまの年は果つれど君ひとつ
願ふばかりは幸いで在れ
敬具
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