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【短編小説】年末ミイラ。

気がついたらトイレに座っていた。
いつから座っていたのか思い出すことができない。
お洒落な照明に薄暗い室内が照らされていた。
とりあえず、足元がかなり寒い。

「何か暖めるものはないかな」

そう言って部屋の中を見てみる。
3mくらいは有るであろう少し広めのトイレで、
目の前には横付けで洗面台が独立している。

洗面台にはペーパータオルとアルコール消毒、後は今年もお疲れ様でした。と書かれたカードが飾ってある。

「毛布みたいなのは流石にないよね〜」

仕方なく横にあったトイレットペーパーを長めに取り、足に巻きつけ暖める。まるで、ミイラだ。

「そういえば、何でここにいるんだろう?
思い出せない、、、とりあえず、出ますか」

少し暖まった所で、トイレから出ようとするも扉が開かない。なぜ開かない?焦る気持ちを落ち着かせながら、必死に扉を押すも開かない。

「と、閉じ込められた!?」

いよいよパニックである。とりあえずトイレにまた腰掛ける。そうだ!iPhone、iPhoneで助けを呼ぼう!しかしバッテリーが無く、ただの203gの使えない物になっている。

「どうしよ。誰か来てくれないかな。」

よくよく考えたら、お店とかの中だよね?従業員とか他のお客さんとかもいるはずだし、扉を叩いて音出してれば誰かに気づいてもらえるはず。そう思い扉を叩きながら、

「助けてくださーい!!!誰かー!!」

と何度も叫んだ。それからどのくらい時間が経ったのだろう。声は枯れ、汗をかくくらいまでまで助けを求めたが外からの反応はない。

「、、なんで、、だれも、反応しないの、、」

息を切らしながら、床に座り込む。そんな床は冷たくて気持ちが良かった。もうこのまま閉じ込められて出られないのかな、、。悲観的になる。
ついこの間みたパトラッシュの最後のシーンが思い出される。トイレの便座にうなだれながら、天使が上から舞い降りて来ている情景だ、、、。

、、、気がつくと、私は疲れて寝ていたらしい。
まだトイレの中にいる。少しスッキリしたせいか、冷静さを取り戻していた。

「でられないなら、助けが来るまで待とう」

手始めに何か使えるものが無いか探してみた。
トイレットペーパー、アルコール、ペーパータオル、水、棚の上には替えのトイレットペーパーくらいか。食料は無いけど、水があるから何とか数日はしのげるか。後は寒さ対策にトイレットペーパーを自分に巻きつけた。これが意外と暖かい。
後は体力を使わないように寝ていよう、、、

テレテテレテテーン♪テレテレテレーン♪
んっ??聴き慣れた音。バッテリーが無いはずのiPhoneからアラームが鳴っている。気づいたらそこはトイレでは無くベッドの上であった。
すると見知らぬ女性が現れ、

「体調変わりないですか?」

何を言ってるのだろうか?
そしてなぜか私はベッドに縛り付けられている。
お腹が痛い、もうパニックだ。そんなこんなしているうちに、何かゼリーみたいなものを飲まされた。すると再び眠くなり寝てしまった。

次に起きた時に私は全てを思い出した!
私は年末に手術を受けていたのだ、
それで入院していた。後に話を聞くと、術後せん妄というやつになっていたらしい。そのため一時的に混乱していたとの事。

晴れて退院の日、お世話になった看護士さんに
挨拶を済ませ正面玄関へ向かった。

その際に聞こえてしまったのだが、最近病院のトイレのトイレットペーパーが大量に無くなっているらしい、、、。

私が何をしていたのかは考えないようにしよう。

おわり。

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