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ばいばいおっぱい
子供が産まれる前、完ミで育てる気マンマンでいた。なぜなら、お酒を飲みたいから!!!
一人で居酒屋のカウンターで飲むのも平気だ。考え事をしたい時は大学、仕事の帰りにふらりと立ち寄ったものだ。
アルバイトは居酒屋。料理にもお酒にも詳しくなった。
ダンス部は何かと飲み会をする。コールしながら酒を飲み干す。
強いわけでもないが、美味しく飲むお酒も、楽しく飲むお酒も大好きだ。
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妊娠中はお酒が飲めなくなり、ノンアルビールをまずいまずいと言いながら飲み続け、今年5月、息子を産んだ。
出産したクリニックは混合育児推奨だったため、母乳がきちんと出ているか、赤ちゃんが飲めているか、授乳のたびに指導してくれた。
幸運にも、息子は初めてのときから母乳を飲めた。私自身の母乳の分泌もいいほうらしかった。
そうなってくると、完ミ計画が静かに音を立てて崩れてきたのである。
おっぱいを飲ませなければ、ガチガチに張って痛くて眠れない。母乳が出すぎて搾乳器をかりて絞った日もあった。眠りたいがために、息子には積極的におっぱいを飲ませ、退院時にはきちんと体重も増えていた。
おっぱいを飲ませていると、不思議な気持ちになる。
やわらかくていいにおいのふにゃふにゃした生き物が、乳首を探して一生懸命口を開けて首をフリフリさせる。そして小さなこぶしをきゅっと握って一生懸命おっぱいを飲む姿の可愛さや。
どんなに疲れていても、この可愛い姿を見ていると幸せな気持ちになった。
しかし退院して里帰りしたところ、両親からのお節介によるストレスや、来客によって授乳のタイミングがズレたこと、さらに県外への引越しと激務が重なった結果、生後1ヶ月ごろに母乳が枯渇、ほぼミルク育児となった。
缶ミルクがどんどんなくなる。息子自身も空腹とは別に安心したいのか、おっぱいを吸いたがりしょっちゅう泣いていて可哀想だった。そのためミルクを飲む時間とは別に出ないおっぱいをただ吸わせるだけの時間が発生し、一日中息子を抱っこして過ごさねばならず肉体の疲労はピークだった。
「完ミでいいやぁ〜」とヘラヘラしていたが、息子の可愛さと自分の心の安定ために母乳を頑張ることを決意した。酒どころじゃねぇ!!!!と。
「桶谷式おっぱいマッサージ」をしてくれる助産院を訪ねた。桶谷式は痛くないのが特徴である。実際、一度助産院が休みの日に自治体の助産師さんのおっぱいマッサージを受けたことがあったが、痛すぎてもう受けまいと思った。桶谷式は温かいタオルで血行を良くしながらマッサージをしてくれ、眠れるくらい気持ちがいい。何度か施術を受け、なんとか母乳メインの混合となった。
それからは育児がとても楽になった。
服をめくれば息子の食事が完了。寝かしつけたい時にはおっぱいを放り出して横に寝転がったまま乳を与えた。
息子とのスキンシップが必然的に増え、情緒が安定してきた。ニコニコと笑ってくれるのがとても可愛かった。
慌ただしい毎日の繰り返し。
生後5ヶ月をむかえ、離乳食が始まった。
息子はそれまでに、大人がご飯を食べているところをじーっとみて物欲しそうにしていたので、離乳食もちゃんと食べるだろうなーと思っていた。
予想通りで、初期はなんの問題もなくよく食べた。
と同時に、突然おっぱいを吸わなくなったのである。
吸わせてみるものの、すぐにぺっとする。
さすがに栄養が足りないので、ミルクを飲ませたらこちらは飲む。
母親の食事が悪いのか?と思い色々やるが、やはりおっぱいは飲まない。
そんな日が2日、3日、1ヶ月と続いた結果、母乳は出なくなったので、私もおっぱいを出さなくなった。
息子もおっぱい無しで寝れるようになっていた。
ある日一緒にお風呂に入った時に、ふとおっぱいを吸わせようとしてみた。
息子は少しだけ舌をぺろっとして、「これなんだ?」と言わんばかりに控えめにニッコリした。
あぁ、もうおっぱいのこと忘れちゃったんだ。
一気に寂しくなり、ニコニコしている息子を胸に抱きながら、湯船の中で涙がにじんだ。
一日一日、成長しているのはもちろんうれしい。
だけど、おっぱいを飲んでくれている時間が私はとても幸せで大切だった。終わってみたらわかる。
その時間はもう、思い出になっちゃったんだね。
おっぱいは立派にその責務を全うした。🔥
出すぎるあまり、何度も詰まって大変だった。乳腺炎になって熱が出てきつかったこともあった。
遊び飲みが始まって、ニコニコしながらなかなかおっぱいを飲んでくれない息子とふたりで笑った日もあった。かわいかったなぁ…
大変なこともあったけれど、可愛かった姿ばかり思い出される。
酒が飲めない苦しさなんてすっかり忘れていた。(混合なので時間調節して飲んでたけど…)
おっぱいよ、息子を一緒に育ててくれてありがとう。
現役を引退したおっぱいは、目立たぬよう控えめに私の上半身で生活している。立派な経歴をお持ちなので、もっとバーン!と主張してもらいたいものだが……。