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思い出の青いみかん

まだ硬い緑の皮を放射状にむく。小さなふさを2つ、甘いことを期待もせずに口に運ぶ。すると案外甘く、思わずほほ笑む。未熟なはずの青いみかんに心地よく裏切られて、それから私には、亡き祖母の思い出がふわりと舞い降りる。

10月の初旬に世に出回る、いわゆる「青切りみかん」は、秋をいち早く知らせる旬の食べ物。そして、私にとっては思い出の味だ。

小学校の頃、当時は運動会といえば必ず秋の行事だった。まだ半袖でも十分な気候な頃に行われる運動会には、遠方から必ず祖母が見に来てくれた。恰幅のよい、と言うと怒られるが、私は運動会のさなか、日傘をさして観覧席に座っている祖母のおおらかなフォルムが見えると心の底から嬉しかった。

祖母が運動会に来る時、決まって買って来てくれたのは青切りみかんだった。子ども心に、何故オレンジになるまで待たずに収穫してしまうのか疑問だったけど、採れた群衆の中にハズレもありつつ驚く甘さのものも秘めていたので、そういう味覚もいいものだと納得していた。そしてそんな青切りみかんを、出回りはじめで値段も安くないにもかかわらず、孫のためにとはりきって買って来てくれる祖母の気持ちが何より嬉しかった。まだ若い旬の味が、尚更おいしく感じられたのだった。

今年もまた、スーパーで青切りみかんが売られだした。「おばあちゃん、運動会の時にいつも買ってきてくれたね」と話せる人は居なくなったけど、あの時の気持ちは未熟なまま、今でも私の中にちゃんとよみがえってくる。
今年も季節が巡った。懐かしさにふと癒される、秋の夜長である。

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