何度も読んでしまう小説〜三島由紀夫「青の時代」〜
三島文学は難解な作品が多い中、これはマイナーですが比較的読みやすい作品かと思います。
あらすじは、戦前、千葉のK市の名家で生まれた主人公・川崎誠の幼少~少年期と、そこから戦時中の6年間をすっ飛ばして、戦後、大学生になった誠は高利貸しの会社・太陽カンパニイを興し、次第に成功していくが…というものです。
後半、会社が急拡大していくくだりが特に好きで、私の中では珍しく4回くらい読んでいる作品なのですが、数年ぶりに読んでみると…うーん、なんだか誠はずいぶん気持ち悪い奴だな、と思ってしまいました。
誠はプライドが高く、基本的に周りの人を軽蔑するスタンスです。自分は周りの奴らとは違うと思っているフシがあります。もっともそれは「彼のような弱気の若者には必要欠くべからざる武器」なのですが。さらに、自分が不利な立場に置かれている時は、あえて僕はこの苦行をしているんだ、とか、わざとこうしているんだ、という具合で、かなりの負け惜しみマンです。地方出身であることや女性に奥手であることを負い目に感じていて、疑り深いくせに権威や都会的なものは盲信しおもねる態度をとる。そういう俗なことこそ誠が軽蔑の対象にしているはずなのに。それでも誠は、初めて太陽カンパニイに客が来たときの独白に象徴されるように自身が軽蔑の対象と同列に並ぶことを認めません。
でもいますよね、こういう人。私の会社の先輩にもいました、辞めちゃいましたけど。自身の認めた人以外はどこか見下したような態度。同僚を小馬鹿にするも見事にスルーされ、もはやどっちが馬鹿にされているのかわからないですが、その事実に本人はあまり気づいていない。高学歴で気弱なところも誠と同じでした。
ただ、その人に限らず、自意識過剰だったりマウントを取られまいとする心理は、誰しもが持っている「人の性(さが)」みたいなもののような気がします。昔の私はそんな誠に共感したような気がしますが、直近の読了後の感想は、むしろ前述の通り、気持ち悪さのほうが強めに感じました。20代半ばという設定の誠の年齢を私が追い越したからなのか、よくわかりませんが。
とはいえ、また数年後にも手にとってしまうんだろうなーとは思います。