傘をさすくらいなら、濡れたほうがいい。
ずっとそう思っていた。
そして、
濡れることを選んできた確かな実績がある。
「雨降るってあんなに言ってたじゃん。
天気予報見てないの?」
*
知ってるよ。知ってる上でさしてないの。
もうほっといてよ。
*
ただ、こんな屁理屈が通用するのは学生まで。
雨粒もキラキラと弾き返せていたあの頃は
「雨に濡れる=青春」に映っていたように思う。
もうこの年になると、濡れていると心配される。
ただただ、普通に心配される。
だから最近は誰かと歩く場面では
気を使わせないように
人のために自分に傘をさしている。
そう、人のために自分に傘をさしているのだ!
もう自分でも何がしたいのかよくわからない。
ただ、周りに配慮できるようになった自分はほめてあげたい。
そんな私が、雑貨屋で傘を買った。
自分のために傘を買ったのだ!
ビニール傘以外を買ったのは初めてのことかもしれない。
*
夏のあの日、
真っ青な空の下で元気に咲いてる向日葵畑。
チェックのシャツで汗を拭いながら
鼻筋からずり落ちてくるメガネを
何度も引き上げ
その男性は真っ黒な一眼のレンズを覗き、
女の子を撮影していた。
やはり向日葵畑には
白いワンピースに麦わら帽子の女の子
がとてもよく映える。
そんなペアが何組かいた。
SNSで繋がるのだろうか。(#写真好き)
とあの子の横を歩きながら、ぼんやり考えていた。
あの子があれを指しながら
「シンアのイメージカラーだね」
と言ってくれた。
それが結構嬉しかったのか、
雑貨屋で傘を選びながら
自然と手にしたのは「この色」の傘だった。
*
「雨なのに傘をささない人」
とあの子に思われたくなくて、
「ちゃんと素敵な傘をさす人」
とあの子に思われたくて、
傘を買った。
2,500円くらいだった。
これがどうして、
持っているだけできゅんとしてくるから驚きだ。
プレゼンされたものでもあるまいし。
《色》だけで
《あの子との夏の思い出》と
《傘》を
リンクできるとは、我ながらあっぱれ。
幼少期に鍛えた妄想力の成果だろうか。
あんなに傘が嫌いだったのに。
今では「あの色」の傘は私の好きなもの。
好きなものがひとつ増えた。
「私って意外と単純な人間じゃん」
ふふふと笑いながら、水溜まりを飛び越えた。
好きな人ができたら
案外、人はすぐに考えが変わるのかもしない。
あれほど頑なに貫いてきたことも
途中からもはや意地で押し通してきたことも
やんわり包んで全く別のかたちになる。
「好き」というのは、不思議な力だ。
わたしにはまだよくわからない。
また今度「好き」ということについて書こう。
*おわり
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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