『ペンギン・ハイウェイ』アオヤマくん系少年のこと
「先生、僕は今さっきという言葉は矛盾していると思います。」
、、、君は、森見登美彦の『ペンギンハイウェイ』に出てくる「アオヤマくん」か、と言いたくなるようなひとことを真顔で言い放つ少年(小6)
そうすると、私は「お姉さん」の立場になるのだが、残念ながら謎めいてもいないし、普通体型より太り気味のしがないアラサーである。
ペンギンは大好きだけど。
彼には、かれこれもう6年以上前、幼稚園の頃から勉強を教えている。
もともとは、彼のお母さん(私の母の知人)に、小学校受験のための勉強を教えてほしいと頼まれていた。私は大学時代に少しだけ個別指導塾でバイトをしており、小学生にも勉強を教えていたという話を母から聞いたらしい。
ひらがなも書けるかどうかあやしい、幼稚園の子に勉強をどうやって教えればよいのだ、おまけに受験に受からせるなんて責任重大である。どうしようか、と思っていたが、結局はなんか楽しそうだなという単純な理由でその話を受けてしまった。
そうして、気がつけば6さいだったおとこのこは希望の小学校に合格して、ちょっぴり生意気な「アオヤマくん」系の少年に成長した。
「今というのはこうしている間も一瞬で過ぎていくもので、さっきは過去のことです。今は今この瞬間しかありません、さっきはさっき単体で使うべきだと僕は思います。」
そう言われると、こちらも、「確かに」としか言いようがない。太宰治の『女生徒』でもそんなことを言っていたな。
しかしながら、ここで納得してしまうと話が止まらない。
「たった今、という意味を強調したくて、今さっきと言うんじゃないかな」
「それなら、たった今で良いんではないですか」
ぐぬぬ。ずっとため口だったのに、小学5年ぐらいから妙にきっちりとした敬語になってしまったところが少しだけ寂しい。そのぶん、親から「屁理屈言うな!」と言われそうなことをたくさん言うようになってしまった。
少年は過去にも
「天下統一できたって、誰がどうやって決めるんですか」
「犬猿の仲って、根拠が先にあるんですか」
「お母さんの言うことを子供が聞かなければならないのはなぜですか」
などのちょっと、いやかなり大人が答えにくい名質問を残している。
『ペンギン・ハイウェイ』のこと
『ペンギン・ハイウェイ』はそれまでの森見登美彦の作品とはちょっと違う、小学4年生の男の子が主人公だ。宇宙や科学に興味があり、自分が気になったことは何でもノートに書き留めていて、びっくりするほど好奇心旺盛だ。小学4年生で、これほど色々なことを深く探求できるというのはすばらしい。
まちの歯医者さんで働いているお姉さんとチェスをしながら、色々なことをお喋りするのが好き。
一方、ブラックホールの怖さや、人生のはかなさについて、シンプルではあるが、大人がはっとさせられるようなことを急に言う。
物語の後半は、アオヤマくんが自分の住むまちとお姉さんの巨大な謎に立ち向かっていく。ラストで大きく成長したアオヤマくんが、お父さんと会話するところは何度読んでも泣いてしまう。
アオヤマ系少年にも、そんな心が大きく揺らぐような体験がきっとこれからあるだろう。
大人は君の発言をうまく処理できないときに、生意気だ、屁理屈だと言うはずだ。
でも君のすべてをうのみにしない姿勢というのは素晴らしいことで、それをきちんと頭で整理して発言できるのもこれまた才能なのだよ。
というようなことを、言ってあげたいのだがまだ言えていない。言うと調子に乗るのが目に見えているのだ。
小学校を卒業するまでには、彼の在り方をきちんと言葉にしてほめてあげたいなぁと思う。