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クリスマスの読書感想文

 pixivのブックサンタ2024企画の参加作品です。
 クリスマスに出た宿題の読書感想文。小学四年生の少女が姉に手伝ってもらいながら頑張って書くお話。作中の児童書は架空のものです。

クリスマスの読書感想文


 冬休み、小学四年生の少女が通う学校では、読書感想文の宿題が出ました。少女はそれが苦手でしたが、嫌ではありませんでした。高校生の姉に手伝ってもらえるからです。
 少女は自分で選んだ本を一生懸命読み、姉の帰りを待ちました。姉が帰ってくると、わくわくした気持ちで出迎えました。
「おかえり、お姉ちゃん。読書感想文の宿題が出たの。手伝って」
「またあ?」
 姉は制服から部屋着に着替えながら、ついてくる妹の話を聞きます。
「本はもう読んだの。クリスマスの本よ。お姉ちゃんも読んで」
 姉に向かって本を差し出します。
「もうそろそろ自分でやりなさいよ」
「お姉ちゃんだって本読むの好きでしょ。それに小学生向けの本なんてすぐ読めるって言ってたじゃない」
「そうだけど面倒くさいのよ、もう」
「ママにも手伝ってあげてって言われてるでしょ。手伝って」
 溜め息を吐きながらも、姉は本を受け取ってくれました。
「アンタ本読むのは好きなんでしょ。何で感想文は苦手なのよ」
「読むのと書くのは違うもん。ほら、これ読んでね」
 姉はリビングに行くと、妹の隣で渡された児童書を読み始めました。
「読んだわよ」
「さすがお姉ちゃん。早いね」
「それで、どこまで書いたの」
「まだ全然」
「ちょっとくらい書いときなさいよ」
「お姉ちゃんが読み終わるのを待ってたんだもん」
「まったく。ほら、さっさと書きなさい」
 こうしていつも姉が手伝ってくれるのです。少女はこの時間が好きでした。
「どこから書く?」
「好きなとこから書きなさいよ。どこが好きなの」
「うーん、どこだろ」
「じゃあ一番印象に残ってるところは?」
「うーん、どこかなあ」
「じゃあ、この本はどんな話って聞かれたらなんて答える?」
「えっとね。サンタさんがいろんな人に会うの。それで転んじゃったりするけど、みんなが助けてくれる話」
「じゃあまずそれを書けば。感想文だけど一、二行くらいは説明入れても構わないでしょ」
 少女は「わたしがよんだのは」と書いて、本の概要を続けました。
「書いたよ」
「じゃ『この物語の中で一番好きなところは』って始めれば」
 姉に促されるまま、書き始めます。
『この物語でいちばん好きなところは、サンタさんが町に行って、いろんな人と会うところが好きです』
「『好き』が重複してる」
「うん?」
「最初に『一番好きなところは』って言ってるんだから『いろんな人と会うところです』でいいのよ」
「そっか」
「っていうか『一番』って漢字、まだ習ってない?」
「習った」
「なら漢字で書きなさいよ、それくらい」
「だって難しいんだもん」
「習ったんなら書きなさい」
「はあーい」
「あと『読む』も習ってない?」
「習った」
「なら書きなさいってば」
 少女は不満を漏らしながらも、平仮名だった「よ」を消しゴムで消し、漢字で書き直しました。
「で、次は?」
「次は、じゃないわよ。アンタの感想文なんだから。どう思ったのかを言葉にすればいいだけでしょ」
「それが難しいの」
 姉はまた溜め息を吐きました。少女はそんな姉を見つめて次の言葉を待っています。
「クライマックスは、サンタが転んでみんなが助けるところよね」
「うん」
「アンタはどう感じたの」
「どうって言われても。みんな優しいなって」
「じゃあそう書いて」
「優しいなだけじゃ埋まらないもの」
「じゃあ言い方考えて。『優しいなと思いました。私も目の前でサンタさんが転んだら助けてあげたいと思いました』とかなんとか」
 少女は手を動かしました。
「そのまま書くんじゃないわよ」
「だって本当にそう思ったもん」
「あっそ。他にはどう思ったの」
「うーん」
「痛そうだなとかは思わなかった?」
「あー……思ったかな」
「サンタさんの服が厚着なら痛くないかなとか、雪の上なら痛くないかもとか。ってそのまま書くなってば」
「本当にそう思ったもの」
「まったくもう」
 少女は作文用紙にそのまま書きました。
「次は?」
「少しは自分で考えなさいっての。他に印象が強い場面はどこ?」
「どこって言われても」
「全体の印象は? 読後感とか」
「どくごかん?」
「読み終えた時の気持ちよ。すっきり? ほっこり? 爽快? 『読み終えたとき、思わず笑顔になりました』とかで締めればいいでしょ。そのあとに『もう一度読みたいです』とか『何度も読み返したくなります』とか」
「それ良い。最後はそれにする。でも間がまだ埋まらないの」
「でしょうね。だから他にどこが良かったか聞いてるのよ」
「それが難しいんだって」
「じゃあ逆に良くなかったところは? 『あんまり印象に残ってないので、その部分は退屈でした』とか」
「なるほど」
「待って、それは思ってても書いちゃダメ」
「どうして? 正直な感想でしょ」
「品がないわ。読者のマナーってやつよ。それに小学生がそんなこと書いたらダメ。誰かに手伝ってもらってるのもバレるかも」
「手伝ってもらうのは良いって先生も言ってたよ」
「でもダメなものはダメ。私の意見を取り入れるなら、ダメってこともちゃんと聞き入れなさい。でないともう手伝わないからね」
「はーい。で、次は?」
「そうね、じゃあもう一度思い出して。物語はどんな話だった?」
「サンタさんが町に来て、町のみんなと会って、転んじゃって」
「そこよ。いろんな人と会ったんでしょ。どんな人がいた?」
「変な格好したおじさんと、黄色が大好きなおばさんと、犬を連れた子供がいたわ」
「覚えてるじゃない。そういう個性溢れるそれぞれ違う生き方をしてた住人が、転んだサンタを一緒に助けたことで仲良くなったわけでしょ」
「そうだね」
「どう思ったの」
「良かったなって」
「……まあ、そうなるわよね」
 考える姉を、じっと見つめます。
「いろんな人が出てきたとこはどうだった?」
「ちょっと面白かった」
「じゃあそれを書いて」
「クライマックスの感想を先に書いちゃったけど」
「別に順番通りに書かなくてもいいでしょ。全体の印象とか、ラストの感動を先に書いたっていいんだから。『途中のこの場面はいろんな人がでてきて面白かったです』って書いて、そこから続ければいいわ」
「面白かったです、の他はどうすればいいの」
「その三人以外にも出てきたでしょ。誰か面白かった?」
「いたっけ、三人以外に」
「印象に残ってないのね。ならその三人で、誰かと話したいとかは思った?」
「別に」
「じゃあそれを書いちゃえばいいわ」
「どうやって?」
「『登場人物は面白かったけれど、近くにはいてほしいタイプではありません』とか。いやちょっとこれはまずいか。今のなし」
 姉は自分で言って取り消しました。
「じゃあ『特に話したいわけではないけど、学校にいたら面白いだろうなと思いました』とかは?」
「良いじゃないそれ! 書いて書いて」
 おもいがけず姉に褒められ、少女は少し得意げな気分になりました。
「他には他には?」
「えー」
「いいアイデアが出てきたんだからもっと他にもあるでしょう。ほら考えて」
 追い立てられますが、悪い気はしません。
「ちなみに私は猫派だから、犬を連れた子供が出てきたとき猫もいてくれって思ったわ」
「あ、それ私も思った」
「じゃそれも書いちゃいなさいよ。『私は猫派なので、猫が出てこなかったのがちょっと残念です』って」
 少女はペンを走らせます。
「あ、『残念です』じゃなくて『悲しかったです』の方が文字数も埋まるわね」
 そのアイデアにも乗りました。
「あとあれよ。『でも雪が出てくるなら、犬の方が寒くないだろうから仕方ないなとも思いました』って」
「それお姉ちゃんの感想でしょ」
「そうよ」
「まあ書くけど」
「どっちでもいいわよ、そこは」
「私も思ったもん」
「あっそ。だいぶ埋まったわね」
 400字詰め作文用紙が一枚は埋まりました。学校の決まりでは、一枚半は書かなければならないので、あと半分は必要です。
「あと半分。もう思ってることないよ」
「じゃあ自分の意見を書いちゃえば」
「意見って?」
「感想とはちょっと違うかもしれないけど、自分の視点で考えるのはいいことよ。例えばもっとこういう展開が欲しかったとか」
 考えてみましたが、特に思いつきません。
「わかんない」
「んー、じゃあ、そうね。最後みんなでクリスマスケーキ食べてたじゃない? アンタはどんなケーキを想像した?」
「普通のケーキ」
「『普通のケーキもいいけれど、チョコレートケーキとフルーツケーキも出てきたらもっと感動できました』とかさ」
「お姉ちゃん、フルーツケーキ好きだもんね」
「そ。だからアンタだったらどういうケーキが良かったのかとか。別にケーキじゃなくていいけど」
 言われて考えてみましたが、ケーキの種類もそんなに知らないし、なかなか思いつきません。
「歌ってたとこは? 『サンタはお気に入りの曲を歌いながら』ってあっただけで、タイトルは書かれてなかったでしょ。だから『私のお気に入りのクリスマスソングはこれなので、同じだといいなと思いました』とか『曲のタイトルを書いて欲しかったです』とか」
「でもサンタさんと好きな曲が違ったらいやだから、書いてなくて良かったと思う」
 そう言うと、はっとした様子で、ぴん、と背筋を伸ばした姉の顔が、ぱっと明るくなりました。
「良いじゃない、それ。独自の視点。作者もそう思って書かなかったのかもしれないし。それ書きなさいよ」
「どうやって?」
「『サンタが歌っていた曲のタイトルが書かれていないのが、もどかしく思いましたが読者の好みに配慮して、書かなかったのだろうと思います』とか」
 沈黙が落ちました。姉妹は見つめ合います。
「ちょっと言葉が難しすぎるわね。アンタの言葉でまとめて」
「ええ? 今のよくわかんないよ」
「曲のタイトルが書かれてないことに対する、アンタの意見をまとめるのよ」
「それが難しいんだってば」
「そこはアンタの頑張りどころでしょ」
 少女は一生懸命考えました。そして書きました。なんとか半分が埋まりました。
「いいんじゃない」
 読んだ姉からも合格を貰いました。
「出来たじゃない。頑張ったわね。ママにも見せてくれば」
「うん!」
 少女はすっかりご機嫌な様子で、母親に見せに行きました。


縦横20×20マスの400字詰め原稿用紙
(一枚目)
 わたしが読んだのは、サンタさんがいろん
な人に会って、転んでしまったりするけれど
みんなが助けてくれる本です。
 この物語の中で一番好きなところは、サン
タさんが町に行って、いろんな人と会うとこ
ろです。クライマックスのサンタが転んでみ
んなが助けるところでは、町の人がみんなや
さしいなと思いました。わたしも目の前でサ
ンタさんが転んだら助けてあげたいと思いま
した。サンタさんの服があつ着ならいたくな
いかなとか、雪の上ならいたくないかもとも
思いました。
 と中で、変なかっこうしたおじさんと、黄
色が大好きなおばさんと、犬を連れた子ども
がでてきたところでは、いろんな人が出てき
て面白かったかったです。とくに話したいわ
けではないけど、学校にいたら面白いだろう
なと思いました。
 わたしはねこはなので、ねこが出てこなか
ったのがちょっと悲しかったです。でも雪が

(二枚目)
出てくるなら犬の方がさむくないだろうから
仕方がないなとも思いました。
 サンタさんの歌のタイトルがなかったので
すが、わたしはそれがよかったと思いました。
サンタさんと同じ歌が好きじゃなかったら悲
しいからです。もしきらいな歌だったらもっ
といやです。だからよかったです。
 あとケーキは、ふつうのケーキでよかった
です。
 読みおえたときは、思わず笑顔になりまし
た。またもう一度読みたいです。

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