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五味のグミを作る/体は変化する

皆様お久しぶりです。今回はタイトルのとおり五味のグミを作ってみた過程のレポートです。本件はloft workさん主催の「Mobile Food Challenge」の企画で制作しました。この取り組みを私なりの解釈でまとめると「講師の先生のご指導のもと、身の回りにある物で携帯食(モバイルフード)を作ってみる。自然の中に持ち込んで食べてみる。一連の取り組みを通して食事をすることについて改めて考え直してみる」といった感じだと思います。せっかくなので長らく休眠していたnoteにレポートをまとめました。「すぐに役立つ」とか「新たな健康法」とかではなくて、ちょっと思いついた実験です。お時間のある時にご笑覧いただければと思います。(Mobile Food Challengeのリンクはこちら↓)

はじめに/体と味の関係性

山好きになりました

ここ数年趣味で山歩きをしています。山にのめり込む理由は人それぞれで、達成感だという人もいれば、体力作りの人もいるだろうし、自然を愛しているという人もいるでしょう。私にとっては眺望や環境の良さもさることながら、体に起こる様々な変化が楽しいというのが主な理由です。頭のモヤモヤが晴れて気分がすっきりするとか、食べたお弁当が美味しいとかそういうことです。

食事の主な機能は「空腹(エネルギー)を満たすこと」「栄養を取り入れること」「楽しみ」などの要素があげられると思います。今回取り扱う携帯食であればより効率よく空腹を満たし、栄養を補給し、美味しいければなお良し。ただこのあたりに関してはすでに世の中にあるものでその要件を満たしているものが多く存在しています。

山の上で食べるカロリーメイトは抜群に腹持ち良いし美味しいし。いざという時のためにバックパックの隅に入れているゼリー飲料はエリクサーの如しです。「今あるものより良い携帯食を作る」を目標にするのがやや困難です。それゆえに、少し身を引いてもう少し足場を整えるような実験をしようと思うのです。

1 世紀に書かれた本草学(薬物学で、薬用とする植物・動物・鉱物の、形態・産地・効能などを研究する学問)の古典『神農本草経』に「薬に酸・鹹(塩味)・甘・苦・辛の五味あり、また寒・熱・温・涼の四気、および有毒・無毒あり」と記し、」薬の本質としての「五味」、状態(発熱・悪寒)への作用としての「四気」生体への作用としての「毒」として3つの要素をまとめています。要素の分類が面白いですね。

このあたりを踏まえて今回のプロジェクトでは食べ物の味、そして味の効能について焦点を当てていこうと思いました。「良薬は口に苦し」という言葉がありますが、苦味のある薬はその味に熱さましの目的があります。また体調によっては口にした薬によってむしろ「良薬は口にうまし」と感じる例も多くあるそうです(体調が整うと薬が不味く感じるようになる)

普段の生活の中でも「疲れて甘い物がたまらなく美味しい」とか、「ストレスがたまって辛い物が欲しい」みたいな経験は誰でもあるだろうと思います。体がどのような味を求めるか、その時に体がどのように変化をするのか、味が体に与える印象などについて調査を行うのが目的です。味の感じ方を通して、常に変化する体に思いを馳せたいと考えています。

準備/味を集める

自宅で忘れられていた食材たち

携帯食にするためには保存、携帯が可能な状態にすることが必須です。今回はそれに加えてできるだけシンプルに味を意識できるようにする、という必要がありますので、グミを作成することにしました。味の種類は先に上げた「五味(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味)」とします(主観的な味ではなく東洋医学的な五味の分類に従う)。構成する食材については自宅にあるものを利用しました。冷蔵庫の隅で忘れられていたレモン、量が半端で長らく放置されていたコーヒー豆、買ったきり出番がなかった生薬などなどです。

漢方薬の煎じ薬の要領で五味にグループ分けした食材を水で煮込み、エキスを抽出し、それをゼラチンで固めてグミ状にし、携帯食とします。本来は数時間ゆっくり煮込みますが、これも漢方薬の機械煎じの要領で圧力鍋を使用する(機械煎じの是非については検討中の模様)。

ちなみにグミが大好物で、仕事中や運転中などお腹が減った時はよくグミを噛んでいます。まさか自分でグミを作ることができるとは思いもしませんでした。けっこう簡単です。

材料/残り物たち

酸味…レモン、梅チューブ
苦味…コーヒー、高麗人参
甘味…山芋、シナモン、棗
辛味…山椒、沙姜、胡椒、にんにく
鹹味…いわし粉、海苔、乾燥海老
水…各100ml
ゼラチン…各6g
圧力鍋
グミ型

五味の分類については五味を横断する食材も一部含まれています。あり物で用意しています。

方法/五味のグミの作り方

謎のグミ生産工場と化したキッチン

①自宅や冷蔵庫の中から五味(酸、苦、甘、辛、鹹)の食材を用意する。
②各味の食材をミックスして10gずつにして小皿にまとめる
③水100mlと食材を圧力鍋で半量になるまで煮詰め(10分間)エキスを抽出する。
④抽出した五味のエキスを温めてゼラチンを溶かす
⑤冷蔵庫で冷やしてグミを作る
⑥完成したグミを自宅、山(大文字山の頂上)の二か所で試食し評価する。

評価

①数値評価:味の好き嫌いを1~5段階で評価する(1が嫌い、5が好き)
②感想の記述:試食した各味の印象を記述式で記入する
(被験者は私ひとりです。個人の感想の粋は出ないし、色々なバイアスがかかるとは思われます。)

結果

完成した五味のグミ

かわいいくまちゃんの形の五味のグミが完成しました。わかりやすいようにペンで名前を書いて持ち運びます。見た目はおいしそうなグミですが、美味しい要素がほとんど入っていないのでどんな仕上がりになっているのか不安ではあります。

試食①職場

9月13日㈭、午前の診療を終えた空腹状態で試食。期待と不安を胸に試食を行いました。感想は以下の通りです。

お腹がグーグーなるような空腹感のある状態で試食したもののどれも基本的にはあまり美味しくはありませんでした。空腹は最高のスパイス…とはならず。とんでもないものを生み出してしまったな、という気持ちです。味の方向性がシンプルなので酸味のギュッと引き締まる感じ、苦味の冷や水をかけられたようなテンションが下がる感じなど、普段口にする食材よりも体への変化をダイレクトに感じます。この後、大文字山に登ってどのような変化があるのでしょうか。ないのでしょうか。(エネルギー不足を予防するために薬局でリンゴ味のゼリーを買ってチャージしました。甘酸っぱくてとても美味しい。)

大文字に登ります

気を取り直して地下鉄で「蹴上駅」まで移動。大文字山に登るルートはいくつかあって、長い階段を上って火床に出る銀閣寺から登るルート。蹴上のインクラインからのルートなど。今回は二つのルートの間にある滝を横目に登るルートにしてみました。天気は曇りで風はほぼなし。真夏のような気温ではないものの、動くと汗をダラダラかくような感じです。平日というのもあって登りは誰ともすれ違わず。静かな山歩きでした。

山は厳しくも楽しい

試食②大文字山頂上

大文字山頂上からの眺め

一時間半ほどかけて登頂。滝の横を通るルートは以前に一度下りで通っていて駆け足であっという間に下山できたので、登りはどうだろうと試してみたんですが、ダラダラと登りが続くルートで結構しんどかったです。(今度からは下るのみにします。)

普段であれば頂上で食べる用にシュークリームだの、クッキーだの、ご褒美スイーツを用意して登るのですが、今回のご褒美スイーツは五味のグミです。せっかく登ったのに…。

楽しみ(あまり楽しくはない)の試食タイム

なにはともあれ試食タイムです。感想は以下のとおり。

味によって、ぼんやりしたろくっきりしたりと感じ方に差があるのと、食べた時の印象にかなり変化がありました。酸味は少しわかりにくい、疲れている時にレモンをかじっても平気になるような感じですね。グミの粒が小さいので体の変化を感じるには至りませんでした。一番不快だった鹹味のしょっぱい嫌な感じが全くなくなっているのは愉快だし、ちょっと元気が出る感さえありました。辛味についてはもう二度と食べたくないくらいダメでした。グミとしてのまずさと体の拒否感が掛け算になった感じです。

命のハヤシライス

五味による感じ方や体の変化を体感できたとはいえ、基本的にはあまり美味しくないグミを食べただけで、このままでは下山の元気不足の不安があります。そんなわけでスープジャーに入れて持ってきた昨晩の残りのハヤシライス弁当を食べました。おいしい。玉ねぎの甘味とトマトの酸味とスパイスの辛味と塩味が複雑にからみあって美味しい。色々な味が美味しくて泣ける。

考察/変化する体を感じる

食事(携帯食)の要素から味の部分を切り取って体との関係を体感してみようというのが今回の主旨でしたが、たった数時間の登山で味覚や印象や感覚が変わるのは愉快な体験でした。

五味の働き

素問「臓気法時論篇」の一部

東洋医学における味の捉えられ方にはいくつかのパターンがあるようです。

  • 味に(気や体を)変化させる作用がある

  • 内臓(五臓)や身体器官と親和性がある

  • 治療のために特定の味を多食する

  • 好みによって病の場所を探る…などなど

今回はその中でもイメージがしやすい気の作用について注目してみます。グループ分けした「五味」には以下のような働きは以下のとおりです。

酸味は引き締める
苦味は固める
甘味は緩める
辛味は発散する
鹹味は軟らかくする

作用させるものは「気」と言ってしまうとそれらしいのですが、体全体のベクトルを一定に向かわせるというようにイメージしています。そのことから今回の変化を紐解いていくと、散々汗をかいて発散した後に発散させる作用のある辛味がはなはだ不快に感じたこともなんとなく納得です。季節が違えばもう少し別の感覚にもなっていたかもしれません。甘味は体を潤し緩める効果があることから山頂では体が喜んでいる感じがしました。ここ一番での活力には甘味は欠かせないということなのだと思います。苦味については少し不思議で、山の上でコーヒーを飲んだらかなり美味しいはずなのに、そうはなりませんでした。シンプルにグミがまず過ぎたのかもしれない。

五味と生活

サウナの後のオロポが美味しいのはほのかな酸味が汗を引き締めてくれているからなのかもしれない。朝起きて苦いコーヒーが欲しくなるのは寝起きで緩んだ気持ちをカチッと固めたいからなのかもしれない。仕事中に甘いチョコレートが欲しくなるのはこんがらがった頭をゆるめたいからなのかもしれない。コンビニで激辛食品にばかり目が行くのはストレスで気が滞っているからかもしれない。二日酔いの朝にしじみの味噌汁が沁みるのは貯まったあれこれをゆるめて排出したいからなのかもしれない。クエン酸の効果が…とかミネラルが…とかそんな予備知識がない状態でも味たよりに必要なものに近付いていけるというのは興味深いことです(もちろん感覚が乱れている場合もあるとは思いますが)。

おわりに

子供の頃の記憶をたどるとふにゃふにゃで味もぼんやりしたたこ焼きや、おいしくもまずくもない、なんともいえないラーメンなど。食べてがっかり…の経験がけっこうあったように思います。それがここ10年くらいはどこで何を食べてもほとんど美味しいものばかり。コンビニのスイーツでもほぼハズレがなく、あらゆる食事が改良されています。複雑で美味しいものが溢れすぎていることでひょっとしたら私たちの味覚や体のセンサーも若干鈍感になっているかもしれません。そんな時は五味のグミを食べると、五味と体のユニークな関係性を思い出すことができる…かもしれません。

謝辞

携帯食を制作するにあたって諸々の手ほどきをしてくださった山倉 あゆみさん。企画を立ち上げてくださった村上 航さん。近所をふらふら歩いていたところを面白いお誘いどうもありがとうございました。

以下の日程で各参加者が作ったモバイルフードの展示もございます。京都にたまたまいらっしゃる用事がある方はぜひお立ち寄りください。

会 期:9月17日(日)〜9月22日(金)
時 間:日・祝:13:00-17:00、平日:17:00-19:00
場 所:なはれ(京都府京都市下京区本塩竈町534
入場料:無料
https://loftwork.com/jp/event/20230916_mobile_food_fair


内容は以上です。仕事と関係ない用事で随分時間を使ってしまい、なおかつ美味しくないグミを大量生産した結果、家族から白い目で見られてしまいそうです。代わりに美味しい何かを差し入れたいと思いますのでなにか面白みを感じて下さった方は投げ銭を頂けると大変喜びます。





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すきさん / お灸と養生
お灸とデザインの人。お灸治療院のお灸堂、お灸と養生のブランドSUERUの代表をしています。みのたけにあった養生ってどうすりゃいいの?という課題に向き合う毎日です。

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