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⦅I⦆nfluence of Tempereture:ワインを保管する温度と温度によるワインの変化

周りの方のワインセラーの故障が続いたため
・ワインを保管する温度は結局何度なのか
について調べました。

オープンアクセスが中心ではあるものの、できるだけ査読付きの論文を参照しています。

ワインが変化する理由は温度だけではなく紫外線、振動等他にもあるものの今回は温度に焦点を絞っています。

ワインを保管する際の参考にしていただけましたら幸いです。


ワインを保管する温度の結論:
    保管(したい)期間によって許容温度は異なる。

  1. 短期間(数か月で飲む)なら20℃まで

  2. 長期期間(数年で飲む)なら5℃-18℃

  3. より慎重を期す(質が高い・10年以上熟成したい)なら10℃-12℃


!注意点!

ワインの化学反応は、温度が10℃上昇すると反応速度が約2倍になる
(De Giuffrida Esteban M.L., et, al. 2019, Cejudo-Bastante M.J., et, al. 2013)


従って、[3.より慎重を期す]ワインを入れているワインセラーが故障したときは、冷蔵庫に入れた方が無難でしょう。

カジュアルなワインであれば、お部屋をエアコンで20℃まで下げて、一時的に保管する対応も現実的です。

余談:
反応速度が上がる=熟成が早まるという意味でもあります。
あえて[3.より慎重を期すワイン]を、戦略的に比較的高温帯で保管し
人よりも少し早めにベストな状態で楽しむ、ことも理論上可能です。


ここからは、上記の結論に至るまでに調べた内容をまとめています。
正直に申し上げますと、ワインの温度による変化はブドウでも
作り方でも、ヴィンテージによっても異なりますので一概には言えません。
温度変化も、例えば真夏の車のトランク(推定50℃)に積んで、エアコンをすぐきかせた場合、等、検証できない状況も多々あります。

ご自身がどこまでを許容するか、その指標にしていただけますと幸いです。


ワインの保管温度に関する諸説

5〜18°Cの範囲で一定の温度を保てば問題ない。

Into Wine, Wine Regions, ND

理想的な保存温度は10〜15°Cの間。ただし、15〜20°Cの範囲であれば
急激な温度変動がなければ大きな害はない。
25°Cを超えると、ワインの揮発性の高い成分が失われてしまうことがある。

Robinson, 1995

13〜18°Cの範囲であれば、現代のワインの大部分は安全。
ただし、温度を一定に保つことがより重要である。
18°Cを超えるセラーでは高級ワインが急速に熟成し、古い繊細なワインが
損傷する。

Sim, 2004

ワインの保存に最適な温度は11°Cであり、5〜18°Cの範囲であればほとんどのワインには十分である。しかしその条件は、短期間で大きな温度変動がないことである。

Stevenson, 2005

ワインは13〜18°Cの範囲で輸送されるべきだと提案しており、32°Cの温度に数分間さらされるとワインが損なわれる。また、2〜3°C以上の温度変動があると、ワインは新鮮さを失う傾向がある。

20年以上ワイン輸送を行っているVIP Transport Inc, N.D.

40℃の条件下にさらされたワインは短い期間でも劣化する。

Ough, 1992

オーストラリア産のカベルネ・ソーヴィニヨンの場合、23°Cまで上昇した温かい保存条件においても、ワインに極端な影響がないことが確認できた。

Walker, AWRI, 2019

フルーティで軽いスタイルのワインは、アルコール度数が高くて木樽熟成のワインよりも敏感。

フルーティで軽い:2017年ピノノワール、2017年ソーヴィニヨン・ブラン
アルコール度数が高く木樽熟成:2015年ボルドー、2015年シャルドネ

Jung, 2021

温度によるワインの変化と影響

ワインは温度が上がることで、様々な影響を受けることが分かっています。

  • 果実の香り成分(エステル)は高温によって減少する(Robinson et al., 2010)。

  • 白ワインは赤ワインよりも熱に敏感であることが感覚テストによって確認された(Butzke, Vogt, & Chacón-Rodríguez, 2012)。

  • 早期の褐変(色の変化)

  • 二酸化硫黄(SO2)の減少(Ough, 1985)

  • その他、酸化反応による否定的な属性の発生(Ribéreau-Gayon, 1933)

  • 色・風味・口当たり・香り (特に複雑な変化が起きるのは赤ワイン)

  • 温度変化は、ワインの膨張と収縮にも影響を与える。
    つまり、CO2やO2などのガス成分の溶解度が変化してしまう。
    ワインの成分構成(特に糖分含量)に応じて、ワインの膨張は
    0.2〜0.4mL/Lの容量になることがある(Häge et al., 2016)。

中でも[3.より慎重を期すワイン]をお持ちの方がご注意いただきたいのは、SO2の減少かもしれません。
温度の上昇に伴ってFree and TOTAL SO2の減少速度が加速するためです。


Free and TOTAL SO2の減少について:高温によって加速

二酸化硫黄の3つの遊離形態

SO2について全てを丸めて端的に言うと、ラベルに書いてある『亜硫酸』のことです。
ワイン内部では3つの形態で存在します。
①分子状の二硫化硫黄(SO2)
②遊離亜硫酸 (Free SO2=HSO3–)
③亜硫酸塩(SO32-)

①SO2 : 二酸化硫黄分子でガスの状態でワインに溶けている。                  
                      酸化防止〇 殺菌効果〇
②Free SO2=HSO3–
: イオン状の亜硫酸。          酸化防止〇 殺菌効果×

効能としては以下が確認されています。

酸化防止:参加反応の影響からワインを保護する。
殺菌効果:微生物の成長を抑える。

酸化防止作用があるということは、酸化を防止するために使用された
SO2は、なくなるということです。

つまり

SO2が減少=ワインの酸化が進み、微生物が繁殖する可能性
∴ワインの質が下がる

保存中、Free and TOTAL SO2の濃度は減少し、その速度は高温によって減少が加速されることが分かっています(Tarasov. et, al. 2021)。

※ 青:Cool (15 ± 3 °C, 55 ± 6% 湿度) 黄色:Warm (25 ± 3 °C, 29 ± 7% 湿度)
※点線は瓶詰め後のSO2の初期レベル。
※保存期間は6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月
右:ワイン中のFREE SO2濃度
左:ワイン中の全SO2濃度

なお、この論文からは最初の瓶詰め時にSO2濃度が低いケースでは
わずか6か月後でもSO2濃度が中位および高いサンプルよりも酸化が進み
劣化がみられることが明らかになりました。
これは、低温で保管したとしても同様の傾向がみられたということです。

所謂ナチュラルな亜硫酸無添加ワイン等は、このことを留意して
保管した方が良さそうです。


参考:温度によるワインの変化を分析する方法

温度によるワインの変化を研究するにあたっては、次のような
3つの分析方法が用いられます。

視覚的評価

  • 液漏れ

  • 栓(コルク・スクリューキャップ等)の損傷

  • ワインの量の増減

  • コルクへの染み出し

  • 液だれの増加

  • ラベルの損傷

化学分析

  • 白ワインの発色(OD420nm(黄色の波長))による黄色/褐色の測定

  • 赤ワインの色とフェノールのスペクトル測定
    (色の波長や、含まれる成分の量などがわかる)

  • Free and TOTAL SO2レベルの測定

官能分析

人間の五感を活用してワインそのものを
「見る」「聞く」「味わう」「嗅ぐ」「触れる」ことで製品の品質を
検査する方法です。

ダメージを受けたワインを2ダース(24本)と、極端な条件にさらされていない同じワインを2ダース(24本)とを比較して評価を行います。

参照

Perdue University, Wine Storage Guidelines -Wines stored at the appropriate temperatures can age and improve-

Tarasov. et, al. 2021, Wine Storage at Cellar vs. Room Conditions: Changes in the Aroma Composition of Riesling Wine

Walker, 2019, Wine storage temperature – investigating the impact of small differences

Jung. et, al. 2021, Influence of transport temperature profiles on wine quality

TN09-The effect of heat and light on wine during strage


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