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あなたも誰かの生まれ変わり 輪廻転生と占星術

古代バビロニアの大規模天体観測を起源とする占星術は、インド式であろうと西洋式であろうと「ルーツはどこの占星術でも同じ」なんですが、それぞれの地域で独自の発展を遂げたことでルール上の相違点がたくさんあります。

占星術の二大勢力であるインド占星術と西洋占星術の一番分かりやすい見た目の違いは「基準点(牡羊座0度の位置)が24度もズレている」という点です。この影響で、その人の太陽が入居する星座が「インド占星術と西洋占星術では違う」という現象が起きる場合があるんですね。

一方、解読手順における大きな違いは「インド占星術は、術者のインスピレーションを活用して語ることが許されている」という部分です。

西洋占星術は純粋に「計算」によってのみ結果を引き出します。もちろん、正しくホロスコープを読み取るためには長い実占経験が必要ですが、別に霊能力とか透視能力なんて持っていなくても、きちんと勉強さえすれば「誰でも読めるようになる」というのが大きなメリットなんですね。

逆に言えば、ホロスコープに表示されていないことを術者が勝手に空想して喋ることは許されませんから、一定以上の技量がある占星術師に頼めば、誰に依頼したとしても「ほぼ同じ鑑定結果が出る」ことになります。

西洋占星術が「神秘的な魔術」ではなく「医学的な診断書(カルテ)」に近い技術であることがここからも容易にご理解いただけると思います。

この厳格さの背景には、西洋占星術におけるホロスコープとは「絶対確実な内面の時計である」という考え方があるからなんです。宿命論に近いものだとイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。最近ではこの運命決定論に反発する形で「ホロスコープとはその人の心の癖(性格)を示すだけのものであり、それを修正すれば運命は変えられる」と主張する心理占星学という学問も登場していますが、多数派を占める伝統占星術の観点から言えば、ホロスコープとは「神の完璧なる計画書」であり、それを我々人間の勝手な都合で変更するなんて許されるはずがないのです。

運命とは「生まれる前に、神と人間との間で交わされた絶対に破ってはならない契約」ですから、「死ぬと決められた日が来れば、本人の意思とは関係なく必ず死なねばならない」ということになります。それと同じ理屈で「私たちが所有するべきだと神が定めたものは、ジタバタしなくても必ず手に入る」のです。

例えば、結婚、我が子の誕生、健康長寿・・・などですね。最初から決まっているんだからあれこれ悩む必要もないし、神の計画は「完璧」ですので、大船に乗った気持ちで人生を悠々と過ごせば良いわけです。良くも悪くも「すべては神の御手にあり」なんですね。

「いやいや、私は不妊治療の末にようやく子供を授かったんですよ」と抗議する人もいると思いますが、本人が「不妊治療をしようと思ったこと」も「高度に医療技術が発達した国に生まれたこと」も、すべては運命によって事前に用意されていたプログラム通りの展開に過ぎません。

つまり「純粋な自由意思など存在しない」というのが西洋占星術が到達した最終結論になるわけです。

それに対してインド占星術は、ホロスコープの計算結果だけでなく、術者が現場で依頼者に伝えるべきだと感じた「インスピレーション」に頼って解読することが許されているため「どの占星術師に鑑定依頼するか?」はかなり重要な問題になってしまうのです。インド占星術の鑑定をハシゴしたことがある人なら分かると思いますが、占星術師によって言うことがバラバラであることは珍しくありませんよね?

特に「こうすれば今後の人生は良くなりますよ」というアドバイス部分については、術者の主観が大いに入りますので、鑑定者によって大きく話の内容が変わってしまうのです。

これはインド占星術の思想背景に「人間の運命は全体の7~8割しか決まっていない。これからの生き方次第で修正できる余地が残されている」という考え方があるからなのです。この「どうすれば良い方向に変えられるのか?」という部分に、インド占星術師の「直感」が大いに関与してくるわけです。

結果にバラつきがある一方で、運良く腕のいいインド占星術師に当たると「将来の結婚相手の名前」を言い当てたりするような、ちょっと信じ難い「技」を見せられる場合があります。そこまで行くとほとんど「超能力」みたいに感じますが、実際に目の前で経験すると背筋が凍り付くようなインパクトがありますよ。

この「意思の力で変えられるもの」と「絶対に変えられない宿命」の違いを見分けるのがインド占星術師の「腕」であり、それは「勉強すれば誰でもできる」という種類のものではないんです。

インド占星術は一流の職人のような「天性の素質」が必要とされる特殊な技術です。だから本場のインド国内で占星術師になるためには、日本の落語家志願者みたいに「師匠の家に住み込む内弟子になって何年も修行する」のが一般的な方法で、師匠から「免許皆伝」の太鼓判を押してもらえるまでは、決して顧客の前に出ることはできない「誇り高きプロフェッショナルな職業」なんです。

途中で「才能がない」と師匠に判断されれば破門されることもありますし、そもそもホロスープに「向いている」と表示されていなければ入門自体を断られることもあります。だから「なりたい人がすべてなれる職業」ではないんです。

最近では通信講座やカルチャーセンターでインド占星術を教えていたりする例も見られますが、残念ながらそれでは絶対に身につきませんし、インド哲学(ヴェーダンタ哲学)を深く理解していない人が手を出しても、依頼者の人生を「導く」ことは決してできません。

「面授」と言って、師匠と一対一で向き合うことでようやく秘伝を伝授してもらえるのがヴェーダ(インド伝統哲学)の一翼を担うインド占星術の世界観です。「一子相伝の北斗神拳みたいなものだ」と言えば分かりやすいかもしれません(笑)。

1960年代、アメリカを中心に始まった「カウンターカルチャー運動」の影響でインドの伝統文化が西洋でブームとなりましたが、このブームに乗っかって金儲けをもくろんだ業者の仲介によって大量の「半人前インド占星術師」がアメリカに招待されたのです。彼らは未熟なうえに金儲けに忙しく、インド占星術師に義務付けられている「神への礼拝」や「霊的な修行」をサボっていましたので「直観力」がロクに使えず、どんどん全体的なレベルが下がって行ったと言われています。

このような歴史がありますので、現代において「腕のいい西洋占星術師」よりも「腕のいいインド占星術師」を見つけるほうが非常に難しいのが現状です。それだけインド占星術は「身につけるのが非常に難しい特殊な技術」ですから、これから占星術を学ぼうと思っている方には西洋占星術のほうが良いかもしれませんね。関連書籍も西洋占星術のほうが圧倒的に多いので「学ぶのが容易」という利点もありますよ。

「いいえ、私はどうしてもインド占星術が学びたいんです」とおっしゃる方は、まずは「非二元論」を説いた哲学書を読むことから始めてください。

さて、違いは他にもいろいろあるんですよ。

天王星・海王星・冥王星の「土星外3天体」は西洋占星術でしか使いませんし、インド占星術では月を「12の星座」ではなく「27の星宿」に分類するという特殊な技法を使います。

インド占星術では「月の配置」を倍以上に細かく分け、詳細に分析するんですね。月は「人間の心の在り方」を担当する星ですから、「霊性の大国」と呼ばれるインドで月が重要視されたのは当然のこととも思えます。

ちなみに、空海が唐から日本に持って来た「密教占星術」や、安倍晴明が使っていた「宿曜占星術」は、インド占星術を土台に中国で改良された技術なので、月を「28の星宿」に分類して使います。

27星宿と28星宿だと「数が違うじゃないか」と言われそうですが、月が地球の周りを一周する公転周期が「27.3日」であるため、流派によってこの小数点以下を「切り上げるか」「切り捨てるか」の見解が分かれてしまったという事情があるんです。この辺のアバウトさが「東洋的」でいいですね(笑)。

インド占星術と西洋占星術のもう一つの大きな違いは「過去世を読み取る技術」です。

インド占星術にはホロスープ全体を9分割して、その人の「過去世を解読する」という技術が存在します。他にも3分割とか60分割など、流派によって技法の違いはありますが、この「過去世解読法」はインド占星術だけに存在する独自のテクニックなのです。

「過去世を読み取る」と言っても「あなたの前世はヨーロッパのお姫様でした~」なんてバラエティー番組の余興みたいな大雑把なものとは違いますよ。どこの国に生まれ、どのような職業に就き、誰と結婚して、何歳の時にどのような理由で亡くなったのか・・・まで細かく読み取れてしまうのです。

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